キャリア
2025.11.17
#40 三度目の挑戦でつかんだ合格――SABFAが変えた美容人生 SABFA特別講師・HAIR&MAKE Edge代表 竹野内 宏明
【竹野内 宏明】
茨城県出身。大学まで剣道に打ち込み全国大会に出場した後、美容の道へ進む。地元・守谷のサロンで経験を積み、つくば「ル・クール」でフォトコンテストを通じてクリエイションを学び、都内での活動を経て独立。現在はサロンオーナーとして経営とサロンワークを両立しながら、JHAをはじめ数々のコンテストで受賞歴を持つ。SABFA特別講師も務める。
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「好きなものを本気で表現しないと、見る人の心に届かない」。そう語る竹野内宏明さんが歩んできた美容人生は、その言葉を裏付ける軌跡でした。30代前半までの混迷期やいくつもの挫折を経てSABFAで得た学び。「やりたいからやる」という純粋な気持ちで続けてきたクリエイション。現在は、SABFAで後進にクリエイションを伝える立場になった竹野内さんのストーリーを紹介します。
INDEX
剣道一筋から美容師へ 直感で選んだ新しい道
僕は小学生の頃から竹刀を握り続けて、高校では全国大会にも出場するくらい大学まで剣道一筋で、卒業後の具体的なイメージはありませんでした。そんな僕が美容に進むきっかけになったのは、親戚であり俳優をしている竹野内 豊さんの存在です。
あるファッションショーに豊さんと2人で行った帰り道、すれ違う人たちが思わず振り返るくらいのオーラがありました。その姿を見て「僕は同じ道には行けないけど、仕事なら一緒に関われるかもしれない」と思ったんですよね。それで思いついた仕事が美容師でした。今思うと、ほかにも選択肢があると思うのですが、当時は美容師しか思いつかなかったんですよ(笑)。
でも、やると決めたら早かった。大学の卒業式が終わった次の日には地元の美容室に就職。美容師免許を持っていなかったので、通信制の専門学校に通いながらサロンで働く日々。めちゃくちゃ大変でしたけれど、3年間学んで無事に免許を取りました。
「この道でいいの?」顧客に恵まれながらも、心はいつも揺れていた
最初に働いたのは、地元・守谷にある「IDEA」。多店舗展開するサロンで、売上管理や組織づくりを若いうちから経験できたのは大きかったです。でも仕事を重ねるうちに「もっとデザインに挑戦したい」という気持ちが強くなって、WELLAのコンテスト「TRENDVISION」で初代ファイナリストになった方がオーナーを務めるつくばの「ル・クール」に移りました。そこはフォトコンに力を入れていて、作品づくりの楽しさを教えてくれた場所。撮影の面白さやクリエイションの奥深さを教えてくれたサロンです。
その後、「やっぱり都内で挑戦してみたい」と思い上京。そこから「迷走期」に入りました。ありがたいことにお客さまはついてくれたんですけど、「進んでいる道がちょっと違う気がする……」というジレンマがずっとありましたね。
SABFA受験に二度失敗……三度目の正直で入学し、人生が変わる
実は20代の頃、SABFAの入学試験を2回落ちたんです。当時は入試倍率も高くて、18人の枠に100人くらい受験するくらい難関だったんですよね。二度目の不合格の後、母親が病気になったこともあり、地元の守谷に戻ることに。その時は「自分の店を出して、地元でお客さまに向き合いながら土台を固めよう」と思っていたんです。
ただ、人生って不思議なタイミングがあるものですね。親戚の集まりで豊さんと会ったとき、CMの仕事で一緒になった資生堂の原田忠さんの話になったんです。「原田さんって、知ってる?」と聞かれて「もちろん知ってます」と。その会話をきっかけに、豊さんは僕と原田さんをつなげてくれようとしたんですね。その後、原田さんから連絡がきたんです。長文で「昔不合格だったことも聞きました。でももしヘアメイクに本気で興味があるなら、もう一度挑戦してみたらどうですか」という内容でした。「やっぱりSABFAを受けよう」と決意して、三度目の挑戦で合格。諦めなくて本当によかったです。
今に生きるSABFAの学び「足し算・引き算」「所作の美しさ」
SABFAの学びの中で特に大きかったのは「足し算・引き算」の感覚。ファッションやモデルに合わせてヘアやメイクを足すか引くか、その判断力がデザインの軸になると体感しました。加えて「所作の美しさ」。ハサミを持つ手や姿勢、立ち居振る舞いまでが全部表現につながることを叩き込まれました。僕のクリエイションの土台を築く濃密な時間でしたね。
僕にとってのSABFAの魅力はやっぱり「世界トップランカーの先生方から直接学べる唯一無二の場所」であることです。基礎から応用まで徹底的に学べるし、感性を磨き続けられる。僕自身、SABFAで学んだことが今もサロンワークや教育の軸になっています。
審査員に迎合するのではなく、自分の好きを貫き通す
僕にとってクリエイションは「やりたいからやるもの」です。キャリアアップのためとか、評価を得るためとか、そういう打算じゃない。純粋に作品をつくることが好きで、夢中になれるから続けてきました。でも、頑張れば他人に認められるわけでもない。コンテストに挑戦しても思うように評価されず、何度も「もうやめようかな」と思ったこともあります。でも結局やめなかった。「結果が出るまではやめない」って心の中で決めていたからです。
転機になったのは、JHAのNewcomer of the Year最優秀賞を獲得したこと。結果が欲しい気持ちが強すぎると、コンテスト審査員の受けを狙いたくなるものです。でもそれではダメで、自分のつくりたいものを貫いたら、結果が出た。そこからは「好きなものを本気で表現しないと、見る人の心に届かない」という確信を持てるようになりました。自分の「好き」に正直でいることが、結局は一番の近道なんですよ。
NEWCOMER OF THE YEAR最優秀賞作品
NEWCOMER OF THE YEAR最優秀賞作品
新しい挑戦「SABFAの特別講師」と「異業種コラボレーション」
ありがたいことに、今はSABFAの特別講師を任せていただいています。授業では「バランス感覚」を一番大事にしています。技術の精度やデザイン性はもちろん大事だけど、80点でも90点でもその人らしさが出ているかどうか、そこを伝えたい。ほかのSABFAの講師の視線に緊張しながら教壇に立つこともありますが、受講生の表情が変わる瞬間を見ると「やってよかった」と心から思います。SABFAで学んだ自分が、学びを伝える立場になっていると思うと、なんだか感慨深いものがありますね。
また、これから挑戦したいことは、音楽やアートの世界とコラボしたり、高級介護施設のような異業種に美容の価値を届けたりすることです。クリエイションを起点に、もっと広いフィールドで表現していきたい。スタッフや若手が「美容師の仕事ってこんなに広がるんだ」と感じられるようにしたい。そうやって美容師の職業的な地位を少しずつでも高めていけたらと思っています。
座右の銘は「百錬剛(ひゃくれんごう)」
僕の座右の銘は、高校の剣道部で掲げられていた「百錬剛(ひゃくれんごう)」です。日々鍛錬を重ねれば、やがて鋼のように強くなる。剣道をやっていたときも、美容師になってからも、この言葉に支えられてきました。どんなに壁にぶつかっても「続ければ必ず形になる」と信じてやってこられたのは、この言葉があったからです。
最後に、これからSABFAを目指す人や若手のクリエイターに伝えたいのは「好きなことを突き詰めてほしい」ということ。時間がかかってもいい。結果がすぐに出なくてもいい。自分の「好き」に正直にやり続ければ、それがやがて自分のブランドになる。僕自身がこれからも、そのことを証明していきたいと思います。
Edge(サロン)店内の様子
https://hairmake-edge.net
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