クリエイション
2025.2.13
#36 creative SHOWER –美と、感性を、あびる時間– 海外でも高い評価を受けるフォトグラファー 鈴木親が仕掛けるファッションシュート

美容技術者をはじめ、美に携わる方々にとって自身のクリエイティビティや仕事に新たな価値を生み出すオンラインサロン「creative SHOWER」。ゲストにフォトグラファーの鈴木親さんをお迎えし、計良宏文がナビゲーターとしてその活動内容やクリエイティブの源泉を深堀りしていきます。本記事では収録された動画コンテンツをダイジェストでお届けします。
鈴木親(スズキ チカシ)●1972年千葉県生まれ、フォトグラファー。独学で写真を学び、1998年渡仏。雑誌『Purple』で写真家としてのキャリアをスタート。ファッション、ストリート、アートなどの分野を横断しながらインターナショナルに活躍。国内外の雑誌から、ISSEY MIYAKE、TOGA、CEBIT、GUCCIのコマーシャルなどを手がける。
計良宏文(ケラ ヒロフミ)●資生堂チーフヘアメイクアップディレクター。インターコワフュール・ジャパン理事、日本ヘアデザイン協会(NHDK)ニューヘアモード創作設定委員長、資生堂美容技術専門学校テクニカル・ダイレクター、一般社団法人ジャパン・ビューティーメソッド協会上級認定講師。2020年7月ヘアメイクアップアカデミーSABFAの8代目校長に就任。
INDEX
意図的につくり出す違和感
計良 本日のゲストは、フォトグラファーで海外でも活動されている鈴木親さんをお招きしました。よろしくお願いします。まずは、ご自身のお仕事を紹介していただきながら、写真のテーマやこだわりについてお伺いできますか。
鈴木
パープルファッションという、90年代先駆けのフランスのインディペンデントファッション雑誌で活動を始めました。そこでは、フォトグラファーやデザイナーを優先させた撮影が多かったですね。
いわゆるVOGUEみたいな感じのファッション誌というよりは、現代美術の作家さんに服を着せたり、ストリートハントしたモデルさんに着せたりとか。

Purple Fashion Magazine 2015
鈴木
これは中野で撮ったんですけど、日本で看板を見ると、アルファベット、ひらがな、漢字、ハングル、縦書き、横書き、全部あって規律性がない。すると、外国人にとってその文字は意味を持たないので、グラフィックに見える。そこが多分日本特有に見えて、面白さを感じるんです。
普通のファッション誌は、人物にフォーカスを当てて後ろをぼかす。僕の場合は、被写体深度をギリギリまで深くするので、シャッタースピードが遅くなって逆に人物がちょっとブレるんですよ。そうすると、他には見ないファッションページになって差別化になる。
あと、いわゆるランドマークが映ることはあえてしないようにしていて。なんとなく日本ってわかるけど、どこだろうって思われる場所を選んでいます。
ニッチなところが面白いと思うんじゃないですかね。気持ち、少しずれている違和感。そこがファッションだったりするんで。
日本と海外のフォトグラファーの役割の違い
計良 同じ場所でもどこをどう切り取るかで随分変わるかと思うのですが。
鈴木
最優先は、光が綺麗に入る場所を選びます。立体的な光ですね。日本は大半のライティングがフラットなんですが、ヨーロッパは横からの光が多いんですよ。だから沈んでいるところと浮き出ているところがある。
日本用の仕事では、白人でもフラットに撮っています。日本のファッション誌と海外のファッション誌の大きな違いが、クレジットに値段が書いてあるか、書いてないかです。海外の雑誌が値段を書かない理由は、多分それを見て買うと思ってつくっていないから。だから、ファッションシュートにテーマとアート性をもって取り組むことができるんです。
計良 逆に日本の場合は、フラットな光で質感もわかるぐらい綺麗に撮って、購買意欲をかき立てたいということですね。
鈴木 冷静に考えるとどっちの良さもあるじゃないですか。小売り側からするとその商品がよく売れる方が良いし。僕も日本で仕事し始めた頃は、全くやり方が分からなくて困ったんですけど、今は両方の違いが分かっている。これは日本用のやつだから少し抑えた方が良いなとか、良い意味での折り合いをつけられています。

MITSUKOSHI ISETAN Catalog 2018AW
海外では突出した個性が求められる
計良 自分を売り込むために、作品をまとめてブックをつくったりすると思うんですけど、日本と海外で何か違いがあったりしますか?
鈴木
ブックのつくり方が圧倒的に違いますね。日本では、現場の対応力とか、何でもできることが重要視される。だから、突出したものより、「これもできてあれもできて」ってことが伝わるようにしたほうがいい。
ヨーロッパは逆に、それを持って行くと、「あなたは何がやりたいの」って言われてしまうんですよ。なので、やりたいことを厳選して、下手でもいいからそれがまとまっている方が受ける。
当時、僕は写真の経験がないまま、ヨーロッパに見せに行ったんです。本当にただのスナップだったんですよ。だからブレてる写真だったり、普通に友達と撮った写真だったりした。日本だとこれは「ただの写真だよ」と言われてしまったと思います。でもヨーロッパでは幸運なことに、「日本人のちょっと違和感がある若者が写っている」と可能性を見出してもらえたんです。
知識があるから自覚的に違うものを作れる
計良 親さんとは、2000年代初めに撮影でお会いして、なんかすごく斬新な写真を撮る方だなという印象でした。ファインダー覗かずに撮るみたいなことをされていましたよね。
鈴木
下手に撮ると絶妙に見る人の気を引くので、上手になっていくのを避けるために覗かないとかはやりますね。何もないところから始める場合は、特徴が明確に分かることがすごく大事で。「変わりがいない人」になった方が重宝されて、個人として名前が出るっていうこともあるんです。
違和感も意図的に選ばないと選べないから、何が王道かを分かっていないといけない。知識がないっていうことは、無自覚になってしまう。知識があるから、自覚的に違うものをつくれるんです。僕みたいな凡人はとにかく勉強して、違うものをつくる。全く違うものをつくったら、それは受け入れられないと思うんですけどね。
計良 それは大切ですよね。あまりに誰も見たことがないものをいきなりぶら下げられても誰も寄り付かないよと。
鈴木 ある種リファレンスの組み合わせなのかもしれないですね。あるものだけど、ちょっと変えて。違和感のつくり方っていうのはすごく大事。
美意識や感性の磨き方
計良 感性を磨くためにどのようなことに意識していますか?
鈴木 コロナがあったからより感じたんですけど、人に会うことによる刺激はすごくあるなとは思います。例えば、その人が持つ文化的背景だったり、言語だったり。その美しさの基準は一つではないので、色んな人に会うとそれぞれの美学みたいなものを知ることができる。
計良 まさにクリエイティブシャワーですね。
鈴木 そうですね。例えば写真の専門学校で教える時に、10代の子もいれば、60代、70代の方もいらっしゃる。逆にその人たちに僕から質問することが多いんですよ。そうやってコミュニケーションを取ることで、その年代独自の視点を吸収できたりします。

個性の見つけ方と磨き方
鈴木
学生によく言うんですけど、個性っていうのは最初から備わっていないと。薄い一枚一枚のものを重ねていって、引いたり足したりして、その人なりの組み合わせができて、それが個性になる。
最初から個性が備わっている人はいないと思うんですよね。生まれながらの天才はいないというか。あえて勉強するとかっていう気持ちじゃなくて、自然とずっと勉強している人が、もしかすると本当の天才なのかもしれないですね。大きな仕事をしている人は、何に対しても意識的にものを見ているなと。
日本のファッション誌やサロンとかは、外国人が驚くぐらいおしゃれなところまで持っていっていると感じます。だから、そろそろ次の段階もいけるんじゃないのかなと思っていて。
計良 そうですね。今度は日本から海外に向けて、日本らしさってこうでしょ、あなたたちどうっていう強さがあってもいいのかもしれない。
鈴木
例えばヴァージル・アブローが、日常着のデニムやTシャツをモードにしているけれど、日本の裏原宿が先にやっていたんですよね。彼らは日常を一段上げていくことで、 ある種ファッションにしていった。そして、それが今メインストリームになっています。
だから今後、例えば日本のヘアメイクさんの日常的な感覚みたいなものが、うまくモードにはまるっていう時期が来ると思うんですよね。でも、無自覚にやっているとそこに気づけなかったりする。
計良 それは大きな違いかもしれないですね。世界の真似事をするんじゃなくて、世界の標準にこれがなるかもしれないぞって仕掛けていくってことが。
クリエイティブシャワー会員へのメッセージ
計良 最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
鈴木
一番僕が刺激を受けたな、変わったなと思ったのは、海外に住んだときですね。そのときに自分の国の良さをすごく痛感したし、海外の面白い価値観も知れた。海外での生活を通して海外と日本のそれぞれ良いところを見ることができるんです。だから、1年住むのが難しかったとしても、1ヶ月、1週間住んでみると日本に戻ってきた時に、日本で当たり前だって思っていたことの良さだったり、グラフィックの面白さだったりに気付くことができる。
あと、知らないところに行くと、ルーティーンで歩いたりできないじゃないですか。常にこの電車はどこに行くんだろうとか、この道はどこに行くんだろうとかって考えたりする。そうすることで日本では気兼ねなくやれていたことでも、子どもの頃のようにフルで脳みそを使うらしいんですよ。
計良 子供の頃の感動みたいなものがまたあるわけですね。
鈴木 例えば東京で暮らしていて、田舎に行っても同じことが言える。自分の知らない場所に行って、知らない人と会ってコミュケーションをとることが刺激になると思います。
計良 なるほど。そうやって毎日の当たり前な生活から脱却するっていうのは、クリエイティビティを高めていくためには必要ですよね。本日は、色々なチャンスを掴むための方法をお伺いできました。ありがとうございました。
――
本内容はcreative SHOWER会員になりますと、全編動画で視聴することができます。(初回登録1週間無料)creative SHOWERでは、美意識や感性を刺激する動画やLIVEセミナーの機会が充実しています。ぜひご参加お待ちしています。
一覧をみる
SHARE