SABFA magazine

クリエイション

2022.10.17

♯13 寝食を忘れて美容にのめり込んだSABFA時代が私の原点- 資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 進藤 郁子

【 進藤郁子 】
ファッション誌や美容誌、ルックブックの撮影や、ニューヨーク、パリ、東京でのコレクションのヘアメイクのほか、美容師向けのセミナーなど幅広く活躍。資生堂のブランドでは「マジョリカ マジョルカ」を担当し、宣伝広告のヘアメイクアップや商品開発に携わる。東京のストリートファッションなど、感度の高いミレニアル世代から支持され、多くの女優やタレントから指名でヘアメイクアップの依頼を受けている。

JHA(Japan Hairdressing Awards)のグランプリなど国内外のヘアコンテストで賞を獲得し、ヘアショーにも参加している進藤郁子。ヘアサロン向けのセミナーなども精力的におこなっています。それらの活動の原点には、SABFAで過ごした濃密な時間がありました。ヘアメイクアップアーティストとして注目され続けてきた彼女の等身大の素顔が垣間見えるインタビューです。

準備不足でSABFAの入学試験に不合格

実家が祖父の代から続く理容室だったので、物心ついたころにはタオルを畳んだり、ロッドを洗ったりなど、仕事を手伝っていました。高校生時代にダブルスクールで美容師免許をとり、大学時代には経営やマーケティングを勉強しながら理容師免許を取得。当時はカリスマ美容師ブームだったのですが、私は自分がそこを目指すよりも、経営を学んでカリスマ美容師を雇う側になりたいと思っていたんです。土日はサロンの手伝いもしていたので、今思うとかなり生き急いでいましたね。

大学卒業後は、サロンワークをしながらヘアコンテストに出場していました。ウィッグのコンテストで好成績を出していたものの、人物のコンテストではメイクに自信を持てなかったんです。そこで、メイクを学べる学校を調べて資料請求すると、資料や特典がたくさん送られてきました。その中から選ぶつもりだったのですが、たまたま母が見に行った着物のコンテストのパンフレットにSABFAが載っていたんです。SABFAの存在を知ったのはその時が初めてでした。

他の学校とは違って、切手同封の返信封筒を送らないと資料を送ってもらうことができず、入学試験もあります。他の学校は入ろうと思えばチャレンジできるし、まずはSABFAの入学試験を受けることに。そうしたら落ちたんですよ。今思えば、試験内容も知らずに受けた不届き者でした(笑)。

夜中の4時まで練習し、課題をこなす美容漬けの1年

不合格がとても悔しかったので、SABFAを調べてばっちり試験対策もして、半年後に「サロンメイクアップコース(*半年コース2019年に終了)」に入ることができました。

SABFAでヘアメイクを学んでいることを話すと、メディア関係の道に進んだ大学時代の友人などのツテもあり、ヘアメイクアップの仕事をもらえるように。私はヘアメイクアップアーティストのアシスタントについたこともないし、現場を見たこともないので、正直不安だったんですよね。それでも期待に応えたい一心で仕事をしていたら、依頼される仕事のスケールがどんどん大きくなっていったんです。

いよいよ「もう一度学んだほうがいいかな」と思っていたころ、SABFAの担任の先生から誘いの連絡があり、ビューティークリエイターコース(*1年間のコース。2019年に終了)を受けることになりました。

文字通り寝る間も惜しんで勉強やレッスンに励み、本当に360日くらい美容漬けでした。お風呂に入る時間イコール睡眠時間と言えるくらい、ずっと起きて美容に没頭していたんですよ。夜中の3時、4時まで練習するのはザラで、私がウトウトしている間に、誰かが私を練習台にしてネイルをしていたことも(笑)。

実家の練習場で、そこに同期のみんなが集まって課題に取り組んでいました。その影響で、先生の講義中に眠くなるので、寝ないように立ったまま講義を聴いたこともありましたね。今はもう当時と同じことは私には絶対できないですね。

技術的な内容はもちろん、熱心な講師やモチベーションの高い同期にも恵まれました。クリエイションと向き合う人たちが、どれだけの熱量を持って仕事に取り組み、インプットし続けているのかを体感できたことは人生における財産です。

経営者になるつもりが、気がつくと資生堂トップヘアメイクアップアーティストに。卒業後はサロンワークに戻り、いずれは経営者になるつもりでしたが、担任の先生から連日連夜の連絡をいただき、「卒業後のこのタイミングしか資生堂に入るチャンスがないのに、検討もしないのは浅はかだ」くらいの熱い言葉で誘っていただいたんです。選択肢として全く視野に入れていなかったのですが、少しずつ心が動いていきました。

私としては「SABFAの先生や資生堂のアーティストとして活躍している人たちは、別世界の人であり、自分は到底その領域に踏み込むことができない」と思っていたんです。その一方で、先輩たちと力の差があるからこそ、成長できる環境であることは感じていました。先生からの「入るのは今しかできないけれど、辞めるのはいつでもできる」という言葉にも背中を押され、資生堂入社を決めたんです。

「3年くらいで辞めるのかな」と思っていましたが、気がつくと資生堂トップヘアメイクアップアーティストに。業界誌に作品を出したり、コンテストで結果を残したり、次々と課題が与えられるので夢中になって取り組んでいるうちに今に至る、という感じですね。
負けず嫌いなので、「何としてでも早く現場に出たい」「良い仕事をしたい」という気持ちも強かったです。現場では超一流の人たちと仕事をすることになります。そこで感じたプレッシャーや気づきもモチベーションにつながりました。

私は天邪鬼なところがあって、みんながやっていないことをやりたいタイプです。きっと、資生堂のイメージはTV広告など、きっちりきれいなイメージが強いのでないかと思います。
私の作品は「資生堂らしくない」と言われることがありますが、褒め言葉だと思って受け止めています。先輩たちのクリエイティブのつくり方を見て、真似して、練習をしてみる。その上で、「先輩たちがやらないことはなんだろう?」と考え、作品を生み出してきました。

セミナーを通じて美容師に伝えたい大切なこと

必死に日々を過ごすなかで、2013年のJHA(Japan Hairdressing Awards)のグランプリを獲得し、それ以降、指名の仕事が増えました。ヘアサロン向けのセミナーがその一つです。美容師向けのクリエイティブをテーマにしたものがあれば、似合わせ・フィニッシュワークなどのテーマもあります。

セミナーを通じて伝えたいことは「自分の視界に入っていない領域に関心を持つこと」です。ヘアサロンごとにサロンの色があるし、お客さまの層や、置いてある雑誌も決まっていることも多い。だから、サロンの色と異なるものを見る作業がしにくいものです。例えば、ブリーチカラーに強いヘアサロンで働きながら、コンサバティブなものに興味を広げたら、新しいエッセンスが加わることでより得意分野が進化すると思います。

また、私はクリエイティブコンテストの審査員として呼ばれることもあるのですが、審査員は比較的に男性が多いですし、ノミネート作品をつくった人も男性が多いという印象です。女性は、美容師として脂がのってきたタイミングで結婚や出産が重なるなど、続けづらいと感じる要因があるからだと思います。私自身、JHAのグランプリをとってからの10年間、出産育児もあって、あっという間に月日が過ぎて行きました。

生みの苦しみを味わいながら、高みを目指して学び続ける

クリエイティブには生みの苦しみがつきものです。完成した作品の裏側には、思いつくまでに費やした時間や試作を繰り返した時間があります。1回の撮影にかける膨大な時間と労力があるわけで、終わるまでは毎回、本当に苦しいです。もう辞めたいとすら思います。でも、作品が評価されたときは嬉しいし、そうでなくても「もっとこうすればよかった」と反省点が出てくるから、またチャレンジしたくなるのです。

30代後半は、妊娠と出産を繰り返して終わった感覚があります。女性美容師さん向けのセミナーで、仕事と育児の両立のコツを聞かれることもありますが、余裕がないまま突っ走ってきたのが本当のところです。スマートにこなしているように見えるかもしれませんが、まさに今も仕事と子育ての間で、絶賛悩み中なんですよ。

特にここ数年の生みの苦しみは強烈です。美術館にいったり、洋書を探して集めたり、昔できていたことが思うようにできません。でも、育児もクリエイティブも、どっちも手放せないんです。いつどんなときも、自分自身が温度を感じるものを生み出したいし、熱量やぬくもり込めた仕事を通じて、見た人の心に語りかけたい。そして、私が携わることで、誰かが笑顔になる。そういうものを残していけるアーティストになりたいのです。


プライベートやお休みがほしいと思うこともありますが、それでも高いレベルで学び続ける大切さを知っているし、依頼してくださる方の顔に泥を塗るわけにはいきません。悩み、苦しみ、成長しながら、前に進んでいきたいと思います。

マジョリカマジョルカ公式サイト creative SHOWER –美と感性をあびる時間– UDA navigated by 進藤郁子 『mekashi project』アーカイブ動画を見る 外部リンクアイコン
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