SABFA magazine

クリエイション

2024.12.24

#33 creative SHOWER –美と、感性を、あびる時間– 伝統文化とアート・デザインの融合。 新しい価値を創造する京源さんのクリエイティブの真髄

美容技術者をはじめ、美に携わる方々にとって自身のクリエイティビティや仕事に新たな価値を生み出すオンラインサロン「creative SHOWER」。毎回さまざまな業界で活躍するトップランナーの方をゲストにお迎えし、美意識と感性を紐解いていきます。

今回はゲストに紋章上繪師(もんしょううわえし)の波戸場 承龍さん・波戸場 耀鳳さんをお迎えし、アートディレクターの成田 久がナビゲーターとして、お二人の活動内容やクリエイティブの源泉について聞きました。本記事では収録された動画コンテンツをダイジェストでお届けします。

波戸場 承龍(はとば しょうりゅう)●京源三代目 紋章上繪師。着物に家紋を手で描き入れる紋章上繪師としての技術を継承する一方、家紋の魅力を新しい形で表現したいという想いで、2007年より家紋のアート作品を制作。紋章上繪師ならではの「紋曼荼羅® MON-MANDALA」というオリジナル技法を生み出す。

波戸場 耀鳳(はとば ようほう)●紋章上繪師。工房「誂処 京源」の立ち上げを機に家紋とデジタル技術を掛け合わせた多種多様なビジネスモデルを構築。デザインの宝庫である家紋が常に身近にある環境で育ち、8歳から始めた書道で培われたバランス感覚で、シンプルでミニマルなデザインを行う。父 承龍とともに、家紋の魅力を国内外に発信している。

成田 久(なりた ひさし)●アートディレクター。多摩美術大学染織デザイン科卒業、東京芸術大学大学院修了。UNO、SHISEIDO、THE GINZA、インテグレートなどを担当。NHK大河ドラマ「八重の桜」のポスタービジュアル、「ただいま、東北♥」キャンペーン企画も。展覧会も多数開催している。

制約の中から生まれる美

成田 まずは紋章上繪師(もんしょううわえし)について紹介いただいてもいいですか。

承龍 紋章上繪師は、着物に家紋を描く職人のことです。その歴史は古く、武士の正装が裃(かみしも)に変わった室町時代ぐらいから始まったとされています。家紋には意味や思想が込められており、たとえばカタバミを表したものは、その繁殖力の強さに子孫繁栄の願いを込めました。

成田 家紋の美しさを一言で表すとしたら?

承龍 制約の中から生まれる美です。家紋は円を描くところから始まります。その円の中にデザインを収める制約があり、その中で最大限の美しい形を見いだしていく。それが家紋デザインの醍醐味です。

成田 今は家紋をデジタルでデザインすることもあるそうですね。

耀鳳 ある企業から「家紋らしいデザインのロゴが欲しい」という依頼を受けたことがきっかけでした。当時僕らはIllustratorを一度も使ったことがないのに、父は「デザインは自分がやるから、データ化は頼むね」と、まるで無茶ぶりのように引き受けてしまいました。

僕が試行錯誤しながら作業を進めていると、父が隣でその様子を見ていて「面白そうだから自分も教えてほしい」と言ってきたんです。でも半月くらい教えても、なかなか曲線をうまく描けない。これはもうダメだなと半ばあきらめていたんですよね。でも「簡単に正円を描けないの?」と聞かれて円を描くツールを教えたら「これだよ、これ」と。黙々と作業をはじめて家紋を描き上げたんですが、円の軌跡が残っている状態だったんですね。それが「紋曼荼羅®(もんまんだら)」という技法です。手書きでは描けなかったような規則性や法則を、デジタルの力を借りて表現できるようになりました。

デジタルで描いた家紋

人を動かすデザインには裏付けがある

成田 お二人は、いろいろなお仕事をされていますが、コレド室町のプロジェクトについて教えていただけますか。

承龍 コレド室町ⅠⅡⅢ、三井タワー、コレド日本橋の5つに大暖簾を掛けるというプロジェクトがあり、参加することになったんです。

コレド室町ⅠⅡⅢの「のれん」のデザインは僕の案が採用されました。当初は「1ヶ月間だけの展示」という話で受けていたのですが、三井不動産の上層部の方々に気に入られ、結局その後も関わりが続いています。

日本橋は五街道の起点という歴史的な背景があるので、それをデザインのテーマに組み込みました。Ⅰでは「結び熨斗」をテーマに、「結び」という紋を基にデザインしました。要の部分には五街道を表現し、日本橋を起点にするアイデアを取り入れました。

Ⅱは、歌舞伎の市川家の紋が三枡なので、五街道にかけて五升枡に天を開けて大笑いという意味合いの紋を提案しました。Ⅲでは「桜通り」にちなんで、桜をテーマにしました。釜敷き桜という江戸時代にデザインされたこの桜の紋は一筆書きで表現できるので「結び桜」という名前で提案しました。

成田 家紋の魅力を、現代のものとしてデザインしていただけるのは素敵ですね。

承龍 コレド室町テラスの依頼があったときに打ち合わせがあったんです。五角形の枡には「合格します」という縁起を込めた意味があり、それが商品として販売されています。たとえば、枡(ます)の組み方や器の形を考える際、枡を重ねる事で、外側が「一升枡(いっしょうます)」、内側は「五合枡=一升の半分=半枡(はんじょう)=繁盛」で、さらに枡を「人」という字と「入」という字に見えるように組み合わせる事で、「一生繁盛益々人入る」という縁起の良い意味になり、より発展的な意味合いをデザインに込められる。こうした意味をクライアントにプレゼンしたところ、一発で採用が決まりました。

成田 すごい!それはクライアントを落としますね(笑)。ちゃんと意味がありますもん。

波戸場承龍さん

波戸場耀鳳さん

ヨウジヤマモトへの紋曼荼羅®デザイン提供

成田 私はファッションが大好きなので、あのヨウジヤマモトとお仕事をした経緯にも興味があります。

承龍 ある時、デザイナー山本耀司さんとつながりがある方が僕達を取材してくださった事がきっかけでした。実は僕がヨウジヤマモトの大ファンで、息子の名前を「耀次(ようじ)」と名付けたのですが、生まれた時は「耀」の字が人名漢字として使えなくて「曜次(ようじ)」で登録したのですが、数年後に「耀」の字が人名漢字として使えるようになった事を知り、家庭裁判所まで行って「曜次」から「耀次」に変えたんですね。そのエピソードが山本耀司さんに伝わり「会ってみたい」というお話になり、一緒に食事をする機会を頂きまして。数ヶ月後にオフィスから電話があり、次のコレクションは波戸場さんとやりたいと言っているからオフィスに来てくださいと。

成田 アーティストとして呼ばれたわけですね。

承龍 家紋を使うのではなく、ヨウジヤマモトの世界観を波戸場さんなりに表現してくださいというお題を頂き、1カ月くらいかけてタランチュラ、ラムスカル、コブラなどを紋曼荼羅®で描いてメールで送ったら「スタッフ一同感動しています」と喜んでいただいて。

耀鳳 パリコレクションの招待状のグラフィックにも採用され、紋曼荼羅®の世界観が前面に出たコレクションになり、夢のようでした。

※耀鳳さんの本名は耀次さんです。

インビテーションに描かれたラムスカル ©︎Yohji Yamamoto Inc.

成田 フェラーリとも仕事されていましたが、それはまたどういう経緯だったんですか。

耀鳳 ニューヨークでキュレーターを務めている日本人の女性の方で、その方があるプロジェクトのディレクターとして関わっていました。そのプロジェクトは、日本の技術を結集させた特別な1台限定の「フェラーリローマ」を作るというものでした。

ディレクターがニューヨークで、日本の文化を紹介する際に「家紋」という伝統とグラフィックデザインの融合について話し、1000年近く続く家紋の文化をフェラーリのプロジェクトに取り入れられないかと提案したそうです。

承龍 フェラーリローマは8気筒エンジンを搭載しています。それにちなんで、八本のピストンを車座に見立てたデザインを取り入れました。その周囲には、八つの波頭(なみがしら)を組み合わせることで、力強さと躍動感を表現しました。このデザインは、フェラーリの性能や美学を象徴しながら、日本の伝統的な家紋の要素を融合させたものです。

フェラーリの紋とデザインの元になった家紋

耀鳳 本来、波は水を象徴していますが、今回は走る車をイメージし、波を砂煙のようなコンセプトで表現しました。このデザインを提案したところ、フェラーリ側から「素晴らしい」と高く評価をいただきました。そして、ニューヨークでの発表会が決まり、僕たちもその場に立ち会いたいと思い、ニューヨークへ行かせていただくことになりました。

その際、父がサプライズでフェラーリローマを紋曼荼羅®の技法で描いた作品を製作しました。人間国宝 岩野市兵衛氏が漉いた和紙に染め摺りという技法でプリントし、額装して北米のCEOにプレゼントしたのですが、「承龍さんがプレゼントした額を、イタリア側のチームも欲しいと言っています」との話をいただきました。そのアート作品はお買い上げいただき、イタリアのフェラーリ本社とニューヨークのフェラーリ、それぞれに納品することになったんです。

フェラーリローマを紋曼荼羅®の技法で描いたアート作品

一流の条件とは何か?

成田 土屋鞄さんのランドセルのお仕事も夢がありますよね。私が子どもだったら親に頼んで買ってもらっていました。

承龍 土屋鞄さんから最初にお話をいただいたのは、「紋をデザインしてほしい」というものでした。いくつかデザインを提案し、選ばれたのが六角形の紋でした。その後、担当者の方から「この紋を連続模様にして、他の用途でも使いたい」というお話があり、そこからが本当に大変でした。連続模様を30パターンほど制作し、その中から選ばれたデザインが現在型押しとして使用されています。

細部には六角形を構成する部分を6分割し、12本の線を入れたデザインが組み込まれています。このデザインは、12ヶ月と小学校6年間を象徴しています。つまり、1年生から6年生までの6年間、子どもたちが過ごす小学校生活の全てを表現しているんです。

ランドセルに描いた六角形の紋

ランドセルに描いた六角形の紋

成田 ここまでお話いただいたように、お二人は世界の一流とされる人たちとお仕事をされていますが、一流とはどのようなものだと思いますか。

承龍 たとえば、何か物を見たり触れたりしたときに、心地よいと感じる。その感覚があとで調べてみると、実は計算し尽くされたデザインだったりするんですよね。その心地よさを自然に感じられるものこそが、一流だと思います。

耀鳳 僕が考える一流の条件は、どのジャンルにおいても『違和感を抱かせない』ことです。何かを手に取ったり、見たりしたとき、自然と心地よさを感じる。その感覚に理由や説明が必要ないものこそが、一流だと思うんです。本物に出会ったときは、純粋に感動を覚えます。美しい空間や建築、家具、外の景色が全て調和しているようなバランスを感じる場所やものに出会うと、これが一流なんだと感じるんですよね。また、一流に共通しているのは、嘘がないこと。それらに触れると、これは本物だなと感じます。

紋章上繪師が考えるデザインの仕事の秘訣

成田 お二人はどんなものからクリエイティブシャワーを浴びていますか。

承龍 今だったら、PinterestやSNSからの情報です。依頼を受けると、集中的に見ています。あとは自然を見ることかな。ほんの小さな花にも美しさを見いだすことができますから、自然は本当に宝物だと思います。

耀鳳 今は建築に興味があります。家紋って家って言う文字がつきますけど最終的に、人間の暮らしが重要になってくると思うので。どういう家だったら心地いいのかなど自分たちが求める家に興味があって、そこで何か実現できたりしたら面白いんだろうと思いますね。

成田 最後に一言、視聴者さんへのメッセージをお願いします。

承龍 僕は常にどうしたら楽しめるか、どうしたら喜んでもらえるか。どうしたら驚いてもらえるか。そんなことを考えながら日々デザインの仕事をしているので、みなさんも楽しみながら、取り組んでもらえたら嬉しいかな。

耀鳳 僕たちがずっと13年間、今のこのデザインの仕事というところで、振り返ってみて思うのは、諦めなかったことですね。長く続けていくと山あり谷ありの人生が訪れるんですね。いいときもあれば悪いときもある。でも、悪いときが来たと思ったときにどうするか。そのときが多分インプットの時期だと思っています。必ず谷があれば、その後は山があるので、山が来たときにアウトプットを始める。長い時間で物事を見るのは重要だと思います。

承龍 私からももう一つ。僕は失敗しないんです。成功するまでやり続けるから。みなさんも頑張ってくださいね。

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