ヘアメイクアップアーティスト
2024.12.17
#31 creative SHOWER –美と、感性を、あびる時間– 資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 進藤郁子『ベーシックにとらわれない個性のハミ出し方』
美容技術者をはじめ、美に携わる方々にとって自身のクリエイティビティや仕事に新たな価値を生み出すオンラインサロン「creative SHOWER」。毎回さまざまな業界で活躍するトップランナーの方をゲストにお迎えし、美意識と感性を紐解いていきます。
今回はサロンオーナーでもある資生堂トップヘアメイクアップアーティストの進藤郁子をゲストとして迎え、自身の考えや、これまでの経緯、普段どのようなことを考えて仕事に取り組んでいるかなど、計良宏文がナビゲーターとなり、深堀りしていきます。本記事では収録された動画コンテンツをダイジェストでお届けします。
■進藤郁子(シンドウ イクコ):資生堂トップヘアメイクアップアーティスト。ファッション誌や美容誌、ルックブックの撮影や、ニューヨーク、パリ、東京でのコレクションのヘアメイクアップのほか、美容師向けのセミナーなど幅広く活躍。感度の高いミレニアル世代から支持され、多くの女優やタレントから指名で依頼を受けている。
■計良宏文(ケラ ヒロフミ):資生堂チーフヘアメイクアップディレクター。資生堂美容技術専門学校卒業。インターコワフュール・ジャパン理事、日本ヘアデザイン協会(NHDK)ニューヘアモード創作設定委員長、資生堂美容技術専門学校テクニカル・ダイレクター、一般社団法人ジャパン・ビューティーメソッド協会 上級認定講師。2020年7月 ヘアメイクアップアカデミー SABFAの8代目校長に就任。
INDEX
すきまから生まれるオリジナリティ
計良 進藤郁子さんは私の後輩にあたるんですけれど、今回は彼女の魅力を深堀りします。まずは現在、どんな仕事をしているのか紹介していただけますか。
進藤
資生堂では「MAJOLICA MAJORCA」というメイクアップブランドの商品開発やマーケティング、宣伝広告などの仕事をしています。資生堂以外では、女優さんの指名で雑誌やテレビ、広告の仕事をしたり、アーティストのジャケット撮影、ミュージックビデオなどをしています。
あとは、東京コレクションでTHE Dallas(フミエタナカ)というブランドのショーを手伝ったりしています。そのほか、『新美容』『HAIR MODE』『IZANAGI』などの美容業界誌の仕事も多いですね。
計良 進藤さんの作品はどこかストリート感があったり、ファッションを感じたり、つくり込みすぎないとか抜け感みたいなものがあると感じるんだけど、どんなことを意識していますか。
進藤
先輩たちの真似をすると、誰かに寄ってしまうと思ったんですよね。そうしたら自分にはオファーがこないと思ったんです。だからスキマ産業と自分で言っているんですけれど、自分らしい表現を探っていったんですね。
エレガントとかクールの範囲からは新しいアイデアが思いつかない。ちょっと不思議なファニー感があるもの、カワイイのとカッコいいのとの間のあいまいな感じが好きだなと。ここはいろいろ思いつくな、と発見したんです。
計良 誰にも似ていない表現を発見していったんですね。
自分のルーツに迫ることでオリジナリティを出せた
計良 ヘアメイクアップアーティストとして活動してターニングポイントがいくつかあったと思うんですけれど、どんなことを考えて作品作りをしていたのか教えてください。
進藤 『HAIR MODE』の誌上コンテストで、作品を掲載するとJHA(Japan Hairdressing Awards)の新人賞にノミネートできる企画で撮ったときです。
計良 「この質感珍しいよね」っていうので、面白いなと思った印象がありました。
進藤 先輩たちが賞を取ってるから、何かを残さなきゃと思って、床屋のアイパーとか、パンチパーマのアイロンを使いました。実家に帰ってお父さんに借りたんです。
計良 自分のルーツに戻ることで、自分らしさを出せたと。
進藤 そのときはJHAにノミネートされたものの賞には届きませんでした。
計良 でもその何年か後にJHAのグランプリも獲りましたよね。
進藤
次の年くらいに準グランプリを獲ったあと、翌年にグランプリを獲りました。準グランプリのとき、先輩の原田忠さんがグランプリだったので、一緒に喜んで少し満足していた部分もあったんですよね。肩の荷が降りた感覚もあって、次は「好きにやっちゃえ」と思ったんです。
候補がいくつかあって「どの作品がいいと思いますか?」と10人くらいの先輩に聞いたんですが、計良さん以外は、別の作品のほうがいいと言っていたんですね。だけど計良さんが、「こっちが好きなんでしょ。出しちゃえば?」と。
計良 そんなことを言った記憶がありますね。
「資生堂らしくない」が誉め言葉
進藤 何年も資生堂のアーティストがグランプリを獲り続けていたんですが、審査員から「資生堂のアーティストの作品だと気づかずに評価したわ」と言われたりして、ちょっと嬉しかったですね。
計良
何々っぽいと言われることは褒め言葉だったりするんですけれど、進藤さんは皮肉に感じるタイプですよね。ヘアスタイルの造形とか、あるいはカラーとかですごくちょっとエキセントリックに見えているんだけど、トータルで見たときに、1枚絵みたいなものになる。配色だとか、モデルの表情だとか。この頃って、かっこよく見せていく方が圧倒的に多かったですよね。
口開けてポカンという感じとか、しかめ面したりとか、そういうモデルの表情が増えてきたと思うんですけれど、この傾向をつくったのは進藤さんだったんじゃないかな。
進藤 この時期は、あえて相反する要素を組み合わせることを意識しました。例えば、スーツとジャージ、パールのようなエレガントなものとミリタリーテイスト、あるいはスタッズとレースなど、対照的な要素をミックスすることです。こういう主軸がないと、狙いを語れないんですよね。
計良 「コンセプトは何ですか?」と問われることがありますが、それがないと作品の意味が薄れてしまうケースもありますよね。もちろん、「タイトルをつけてください」という要求に対して、「別にタイトルなんてなくてもいいじゃないか」と思う場面もあるかもしれません。でも、やはり何らかのコンセプトを持って話を展開することには意味があると思います。
進藤 コンセプトも大切ですし、普段の仕事では、ヘアとメイクの相互関係を意識しています。例えば、「ヘアが少し弱いな」と感じたときはメイクでぐっと印象を強めたりして。ただ、毎回撮影後は反省してばかりです。「なんであそこにあのメイクをもう1個足さなかったんだろう」とかですね。
モチベーションの高い人たちがいる場所に自分を持っていく
計良 作品をつくる上でのモチベーションはどういうところにありますか。
進藤 要所で自分をモチベーションの高い方がいる場所に持っていくようにしています。仕事で出会う方たちには、大御所になってもひたすら作品撮りをする化け物みたいな人たちがいるわけですよ。だから、「どうやって家庭と両立しているんですか」とか言われるんですけれど、気づいたらそういう環境の中にいて、そうせざるを得ない状況だったんです。
計良 環境って大事だよね。
進藤
今の時流と外れているかもしれないですけれど、自分が憧れる人たちは没頭して、休みもせずに、人の心を動かすものを作っているんですよね。
去年、一昨年ぐらい連載が続いて毎月作品を作らなきゃいけないっていうときに、結構つらかったんです。家庭の事情もありつつ、ちょっと休みたいと思うタイミングでUDAさんと会ってしまった。「作品撮りしないなんて駄目だよ。育児もクリエイティブだ」って言われて。さらに頑張らなきゃと思えたのはよかったですね。
※UDAさん出演creative SHOWERイベントレポートはこちら
DJのようにミックスするのが今の時代
計良 センスや感性についてどういうふうに考えていますか。
進藤
DJみたいにミックスするのが今の時代なのかなと。
計良さんの時代と私の時代、さらに若い子たちの時代で見てきたものが違うと思うんですけれど、それを集めて出すことがセンスなのかなと。
どういうところから吸収して、どういう引き出しを増やして、どういう感性を浴びたいって思う。例えば本を見てるのもそうだし、SNSとかもそうだけど何が「おしゃれ」と感じるみたいなところで、結構偏りますよね。
計良 人によってね。でも、その違いが個人にとって、あるいはその人の周りのコミュニティにとっては「おしゃれ」と感じられる基準になることもあると思うんです。
進藤 自分でしっかり考え抜いて、準備を重ね、練習して作り上げたものは、やはり完成度が高く、計算され尽くしている部分が多いですよね。でも、意外とその場で起きたハプニングや偶然の出来事が、おしゃれに見えたり、面白さを生んだりすることもあります。
計良 みんなが一瞬で「あ、これ面白いんじゃない?」みたいなノリになることってありますよね。きっとみんなのセンスが集合体となって生まれる瞬間なんだと思うんです。
進藤 自分が資生堂にいることも影響しているかもしれませんが、大衆を対象にしたお仕事と、ヘアメイクさんやファッション業界など、よりプロフェッショナルな層を対象にしたお仕事では、アプローチの仕方が全く異なるんです。その中間くらいの立場にいることで、いろいろなことに挑戦できる幸せを感じることもあります。ただ、一方で、「ここまで振り切れていないな」と葛藤することもありますね。
計良 でもわりと自由に表現しているように見えますが。
進藤
すごい先輩ばかりを見ているから自分が足りないと思うのかもしれないですね。
やっぱり、さまざまな接点を持ちながら人と関わり、新しいアイデアや姿勢に触れる機会を自分から積極的に作ることが大切だと思っています。例えば、美術館に足を運ぶのもいいですし、みんなで作品作りをしたり、飲み会で意見を交換したりするのもいいですよね。自分にとってのパワースポットのような場所にいるときが、一番多くの感性を浴びているなと感じます。
計良 最後に、読者のみなさんへ進藤さんからメッセージをいただけますか?
進藤 自分もまだまだ学ぶ立場ですが、計良さんをはじめとする多くの方々と接点を持つ中で、感性を磨きたいという想いが強くあります。自分も感性やセンスを磨き続けられる存在でありたいですし、同じ志を持つ皆さんとともに、そうした場を提供していけるよう努めたいです。一緒に頑張っていきましょう!
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