SABFA magazine

ヘアメイクアップアーティスト

2024.2.4

#26 20年経っても色褪せないSABFAで学んだメイクの原理原則 ~SABFA ヘアメイクアップコース担任 篠塚 豊良~

【篠塚 豊良】
資生堂ヘアメイクアップアーティスト。資生堂が運営する一流のアーティストを目指すアカデミー「SABFA」クリエイターコース卒業。現在は講師を務める。女性誌やコレクションなど多岐にわたり活動。シンプルでナチュラルなものからイメージ表現まで、幅広く得意とする。美容師として働いていたが、メイクを含むトータルビューティーをかなえる仕事がしたいと考え、この仕事に就く。ナチュラルな美の追求にこだわり、普遍的な美の表現を目指す。


SABFA ヘアメイクアップコース担任の篠塚 豊良は、女性誌やコレクション、広告撮影など美容の最前線で経験を積んできた資生堂ヘアメイクアップアーティストの顔も持っています。もともとは美容師として独立を目指していたという篠塚が、なぜSABFAで学ぼうと考えたのか。SABFAで学んだことがどのように活かされているのか。そして、ヘアメイクアップコースの担任として学生にどんなことを教えたいと考えているのか聞きました。

野球部の坊主頭の反動で美容の道へ

中学時代は野球部で、髪型は坊主一択でした。やりたい髪型も我慢しなくてはならない不自由さに反発する気持ちが、私を美容師という職業に導きました。

高校時代には美容師になることを決めていて、友達や自分の髪で遊んでいましたね。卒業後は、地域密着型の美容室で働きながら、通信教育で美容師免許を取得。その当時は、とにかく早く一人前のスタイリストになりたいと思っていました。

社内でクリエイティブコンテストを開催する会社だったので、アシスタントもスタイリストも関係なく、夜な夜な作品作りに勤しんだことも。デビュー前なので髪は切れないんですが、いろんな薬剤を試したりして、楽しみながらやっていました。今から見ればメチャクチャなスタイルを作っていましたけれどね(笑)。

スタイリストになってからも創作意欲は高まる一方で、雑誌などのメディアに出るような撮影の仕事をしたいと思うようになりました。そのため、美容専門誌の撮影をするチャンスがある美容室に転職。でも結局は、すぐに撮影の仕事が末端の自分に回ってくるはずもなく、燻っていた時期もあります。

ただ、その美容室で働いているときSABFAに通ったことがある人と出会う機会があり、興味を持ちました。将来的には独立したいと考えていたのですが「独立前に、ヘアメイクアップの技術を学んだほうがいいかもしれない。メイクもできる美容室はスタッフ募集のときも売りになるはず」と思ったのです。それが、SABFAに入学したきっかけでした。

時代に左右されないヘアメイクアップの根幹を学ぶ

入学した当時のノートにこんなことが書いてありました。「習っただけではSABFAは卒業できない。身につけて卒業する」と。今のSABFAにも通じる言葉だなと思います。知識があるだけでなく、学んだことを咀嚼して、アウトプットできる人を育てるというSABFAの信念が揺らぐことはありません。

SABFAで学んだ内容は、卒業して20年経った今でも役立っています。メイクアップの基礎は時代が変わっても本質的なところは変わりません。デザインする上での黄金比も、変わらないものです。資生堂が長年培ってきた美の原理原則に、流行のスパイスが入っています。時代に左右されることのない、メイクアップの根幹部分を学び、磨いた時間でした。

ヘアデザインを考える土台となる知識と技術、モデルの個性を捉えるための分析力、そしてコミュニケーションなど、ヘアメイクアップだけではなく美容室のサロンワークにも通じる内容も多く学ぶことができます。

それまで感覚的だった作業に、SABFAの理論の裏付けができました。また、SABFAに蓄積された表現方法のパターンをいくつも学べることも大きかったです。独学では埋められない差があると思います。

同期の仲間にも刺激を受けました。美容室オーナーや20代の若手美容師などそれぞれのバックグラウンドは異なりますが、SABFAに入れば先輩も後輩も関係ありません。

印象的だったのは、トップシニヨンとネープシニヨンの授業。頭の丸みに合わせて、毛の流れを崩さずに、形を作るという本当に基礎の技術です。ただ、ヘアメイクの土台になる技術のため、簡単に合格はもらえません。ベテラン美容師も苦戦する中、美容師歴4年くらいの同級生が一発で合格したんですよ。きっと努力はしているんだと思いますが、天才はいるんだなぁ~と思いましたね。

世界のファッションの最前線に身を置く

卒業後は独立するつもりでしたが、せっかくの機会なので資生堂の入社試験を受けてみることに。入社が決まると同時にハサミを置いて、スタイリングとメイクアップだけをするヘアメイクアップの仕事に変わりました。そういう意味では、SABFAに入ったことで、人生が変わったと思います。

一般誌や広告の撮影、コレクションなど仕事の幅も大きく広がりました。撮影の仕事も、コレクションの仕事も、一人ではなくチームで完成を目指していく。チームで一つの世界観を作り上げたあとの達成感は代え難いものがあります。

広告の仕事で今も覚えているのは、資生堂のヘアケアブランド「TSUBAKI」の撮影です。髪の艶と動きを表現するために髪の毛を操る研究会が立ち上がりました。SABFAの計良校長と一緒にやっていたんですよ。CM制作会社にも協力してもらい、髪の動きを何度も撮影して、求めていた艶と動きを実現したという思い出があります。

コレクションの仕事に関連することで、とても思い出深いのは、パリコレでCOMME des GARÇONSやJUNYA WATANABEのショーを生で見ることができたことです。私がショーに直接関わっているわけではありませんが、世界のファッションの最前線に身を置いていることで、リアルタイムで最先端のファッションや感性を感じ、自身のクオリティを常に高めていけるのだと思います。

講師として目指すのはメイクの面白さに気づかせること

ヘアメイクアップは基本的に髪を切りません。モデルさんの個性を踏まえて、魅力を引き出していく仕事です。髪の毛の長さも、色も変えず、スタイリングとメイクだけで新しい表情を作っていく。技術が増えることによって、ニュアンスのレパートリーが増えていく。そうして、感謝される。これがヘアメイクアップの醍醐味だと思いますね。

そして今、私がSABFAで講師を務めているのは、メイクアップの仕事に熱量を込めてやりたいと思ったことがきっかけでした。教える上で心掛けているのは、メイクの面白さに気づいてもらうことです。なぜなら、それが学び続けることにつながるから。

そのため、興味深いと思ってもらえる技術や知識を伝えると同時に、ユーモアやファニーな面白さを感じてもらえる講義をしていきたいと思っています。そのために、技術はもちろん、ユーモアのセンスも磨いていかなくてはいけない。

ただ、私も歳を重ねるにつれて、若い人とのギャップを感じることが増えました。たとえば「シェーディングを入れすぎると聖飢魔IIのデーモン閣下みたいになるよ」と言っても、そもそもデーモン閣下を知らない世代の学生は「ぽかん」としている。独りよがりのユーモアにならないようにしたいですね。

そんなこんなで講師を始めて5年ほどになります。私が指導した卒業生も増えました。嬉しいのは卒業生の活躍を知ったとき。「コンテストで世界一になった」などの報告をもらったとき、自分のことのように感動します。卒業して離れていっても、それぞれの居場所で頑張っているんだなとしみじみ感じますし、やはりこれが講師という仕事の醍醐味なのだと思いますね。

座右の銘は「継続は力なり」

私は継続することを大事にしています。たとえば、自分の仕事の完成度を高めることを考えたとき、どれだけ精度を上げる努力を重ねたかが勝負になると思っています。

上手くなるためには継続するしかありません。課題を見つけてクリアして、また次の課題にトライする。その繰り返しで成長します。当然ですが、継続をやめたらそこでストップしてしまいます。

卒業生を見ていても、努力を続けている人はやはり結果を出していますね。もちろん、継続さえしていれば成功するわけではないですが、成功している人は努力を継続していることに間違いないと思います。


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