SABFA magazine

ヘアメイクアップアーティスト

2024.1.26

#24 真の目的から逆算してデザインする ~資生堂HAIR&MAKEUP ARTIST 藤岡 幹也~

【藤岡 幹也】
資生堂ヘアメイクアップアーティスト。ニューヨーク、パリ、ミラノ、上海、東京のコレクションなどでグローバルに活躍中。国内外でセミナー講師を務め、ヘアショーにも参加。またファッション誌やブランドのルックブック、ミュージシャンのヘアメイクなど多岐にわたり活動。美容業界で権威あるJHA(ジャパンヘアドレッシングアワード)でも受賞している。クリエイティブなデザインや、ファッショントレンドを取り入れたヘアメイクアップセミナーにも定評がある。

SABFAを卒業し、資生堂ヘアメイクアップアーティストとして活動しながら、SABFAのアート&ディレクションヘアメイクアップコース担任講師として学生を導いている藤岡 幹也。ヘアメイクアップの第一線で得た経験を学生に還元しています。そんな藤岡が、現在に至るまでの歩みと、SABFAで学んだことがどのように活かされているのか、そしてSABFAで学びたい人たちに向けて伝えたいメッセージを聞きました。

教師か美容師かの2択で、美容師の道へ

小学生でドラムを始め、中学生ではギターを手にし、高校時代はバンド活動を楽しんでいました。日本のパンクロックに影響を受けて、ファッションやヘアスタイルにもこだわりを持っていました。

高校は進学校だったため、周りのほとんどが大学に進学しましたが、僕ともう一人くらいが専門学校に進む道を選びました。進路を考えた時、僕は将来、教師になるか美容師になるかで迷っていたんです。最終的に美容師の道を選んだのは、それが一番熱中できると感じたから。当時流行っていたヤンキーばかりの学園ドラマを見ていたので、勝手に影響されてしまい『僕に勤まるかな…』なんて感じたことも、選択に影響を与えていました(笑)。

美容専門学校の1年生の頃、複数のイベント会社主催の美容や服飾の専門学生がショーを行うファッションショーのイベントに参加しました。そこでプロのヘアメイクアップアーティストの仕事を間近で見て、「こんな職業もあるんだ!」と衝撃を受けました。モデルを魅力的に変身させるその姿に憧れ、自分もヘアメイクアップアーティストになり、いつかミュージシャンのヘアメイクを手がけたいと考えるようになったんです。

卒業後は、本社を大阪に置く、25店舗を展開する美容室で働きました。1年半という短い期間でスタイリストデビューを果たせたのは、ヘアメイクアップアーティストを目指すという明確な目標があったからです。その後、約2年半スタイリストとしての経験を積みながら貯金をし、メイクスクールに通うタイミングを見計らっていました。

SABFAの申し込み直前に父が倒れ、惑う

当時のSABFAは平日毎日授業があったので退社し、上京するつもりでいました。勤めていた美容室が、とても人を大切にするところだったので不満もなかったし、夢をかなえたいという自分の思いでお客さまやお店にできるだけ迷惑をかけたくないと思っていたので、退社のタイミングにはとても悩みました。結果的に勤めていた店舗が閉店する時に、僕はSABFAに行きたいということを伝えました。

ありがたいことに、社長からもヘアメイクアップアーティストの夢を応援していただいていたんですよ。SABFAについて知ったのも社長がきっかけでした。

順調に進むことばかりではありません。SABFAの申し込みの時期に、父が仕事中に倒れたんです。命の危険もある状態でしたが、一命を取り留めました。でもその数日後に再び倒れて左半身に後遺症が残ってしまうことに…。そんな状態で仕事を辞めてSABFAに行っていいのか本気で悩みました。

そんな状態だったにも関わらず、父は「俺は大丈夫だから。お前の人生だから好きなようにやれ」と。子どもが自分のせいで夢を諦めるなんてことは絶対したくなかったのだと思います。実家は大変な状況でしたが、父の言葉に背中を押され上京しました。

SABFA入学はかないましたが、東京での生活費を賄えるほどの貯蓄があった訳ではなく、親に頼るわけにもいかず、平日は授業後に焼肉屋さんで、土日は1000円カットで働いて、なんとかギリギリの生活で、お昼もお弁当を作っていましたよ。

さらに、SABFAの宿題もあり、これまでの人生において一番大変な時期でした。でも、同じ夢を追う仲間がいるし、目標に向かっているから心は充実していました。SABFAで学んでいたころは、自分の人生の中でとくに輝いていた期間だと思っています。

SABFAで学べる基礎技術と理論は一生モノ

今もヘアメイクアップの仕事をしているのでより強く感じるのですが、SABFAで学べる基礎技術と理論は、一生使うことができます。

僕は卒業後に資生堂に入社し、ヘアメイクアップアーティストとして、資生堂のプロダクトの広告撮影や、パリコレなどのコレクションのバックステージ、タレントやミュージシャンのヘアメイクアップなど、本当に幅広い仕事を手がけています。

そこで活きるのが、SABFAで学んだ基礎技術と、美の裏付けとなる理論なんです。SABFAでの学びは、さまざまな現場で対応できるヘアメイクアップアーティストになるための土台をつくっているとも言えます。

ヘアメイクアップの仕事の幅が広いと、その分、やりがいを感じる瞬間が増えます。コレクションのバックステージでは、非日常をつくるようなアプローチも多いですし、遊び心や自分のエッセンスを加えるチャンスがあります。

広告の仕事は「売る」という目的があるので、クリエイティブというよりは、多くの人に共感してもらえるような商業的な表現が求められます。これはこれで面白いですし、しっかりとクライアントの要望に応えられると、また次の依頼がくる。結果がはっきりしています。

自分の携わった広告を店頭で見たときは感慨深いですし、商品を買いにきている人を見かけたら嬉しいですよね。もちろん、ヘアメイクアップが全てではないけれど、心を動かすきっかけに関わることができたと感じます。

どの仕事も楽しく、醍醐味を感じているので、ヘアメイクアップを仕事に選んで本当に幸せです。世の中には様々な仕事がありますが、「楽しい」と感じながら仕事ができる人が、果たして何割いるのかなと、時折思うことがあります。

そして、今はヘアメイクアップの楽しさを、講師として人に伝える機会も与えられています。高校時代の夢は教師か美容師だったので、想像していたものとはカタチが異なりますが、当時の夢をまさに今叶えている感覚です。

「何のためにつくるのか」を意識してほしい

講師として大切にしているのは、自分がお手本を見せるのではなく、学生に考えてもらうことです。最初に答えを見せると、自分で考えにくくなってしまいます。まずは、学生がやりたいことを引き出して、頭の中で思い描いている理想に近づけていくためにどうするか。そしてクオリティを挙げるにはどうするかという視点でアドバイスしています。

もう一つ大切にしているのは「何のためにつくるのか」を意識して取り組むことです。ヘアメイクをするにも場面によって目的は異なります。自分自身を表現するため、商品を宣伝するため、その人を演出するため、ファッションの世界観を助長するためなど。求められている要望や表現を理解し、その時々の目的から逆算してデザインする力を学んでほしいと思っています。

その結果、満足のいく作品をつくることができて「成長できました」と言ってもらえたら嬉しいですし、「上手くいかなくて悔しかったです」と言われたときも学生の、のびしろを感じて嬉しいですね。

少しでもSABFAに興味を持ったなら、すぐに入学したほうがいいです。僕は24歳のときに入ったのですが、同級生の40代、30代の方から「君は未来の選択肢が広い。僕らはスタッフの生活とか背負うものがあるから、今の仕事を捨てることができない」と言われたんです。当時の僕は何も失うものがなかったから、ヘアメイクアップの世界に没入できたのは事実だと思います。"善は急げ"という言葉の通りです。

座右の銘は「楽しむこと」

僕はセミナーの仕事で、全国の美容専門学校を回っています。そのとき、必ず最後に座右の銘で締めると決めています。座右の銘は「楽しむこと」です。僕自身、仕事もプライベートも含めた人生全てを楽しみたいと思っています。

美容業界は離職率が高いし、辞めたくなる理由がいくつかあるのもわかります。でも、もともとみんな髪の毛をデザインするのが好きだとか、人をキレイにしたいとか、楽しいことを期待して始めている仕事だったはずです。
きっと厳しい経験もあると思うけれど、いろんな経験を乗り越えた先に、楽しいことが待っている。だから、そういったときこそ、「あとで楽しめる」と信じてほしいです。美容師の仕事も、ヘアメイクアップの仕事も楽しいことがたくさん待っています。
そのことを僕が約束します。


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