ヘアメイクアップアーティスト
2024.1.25
#23 SABFAで創造欲求が目覚めたあの瞬間から、感動は続いている ~資生堂HAIR&MAKEUP ARTIST 中山夏子~
【 中山夏子 】
SABFA卒業後、資生堂に入社。コレクションやセミナー、またファッションデザイナー・山本寛斎のイベントやバレエの舞台ヘアメイクなどを務めるなど、さまざまな分野で活躍中。ナチュラルからエッジーまでトレンド感を押さえながら、その人の魅力を引き出したメイク術に定評がある。資生堂ブランドでは「インテグレート」を担当し、カラークリエーターとして商品開発やメイクアップソフトの情報作成に携わる。 ホリスティックビューティー関連の活動も行なっている。
――――――――――――
SABFAのメイクアップコースとオンラインメイクアッププログラムを担当する講師、中山夏子。大学在学中にメイクの魅力に取り憑かれ、卒業後にメイクアップアーティストとしてのキャリアを歩み始めました。導かれるように資生堂のアーティストになった数奇な運命を辿りつつ、ブランドを背負う苦労と喜び、SABFA講師として願うことなどを聞きました。美容師はもちろん、美容業未経験の方にも読んでいただきたいインタビューです。
INDEX
興味の入り口は特殊メイクだった
大阪出身の特殊メイクアップアーティストが、ハリウッドで活躍している話をテレビで見て、メイクに興味を持ちました。幼いころから、映画『グーニーズ』や『ネバーエンディングストーリー』などの世界づくりに憧れて、私も作り手になりたかったのも大きかったと思います。
その当時の私は、大阪在住で、京都の大学に通う学生でした。メイクアップを学びたいと思いましたが、大学の学費を出してもらっている手前、両親に追加での負担をかけられません。そのため、アルバイトでお金を貯めながら、大学の単位をできる限り早く取得し、3年生からメイクアップスクールに通うことにしました。実際にメイクの基礎から学んでみて、特殊メイクよりも、美容業界のヘアメイクアップに興味が湧いてきたんです。
ヘアメイクアップアーティストになりたいと思っていたので、当然、企業への就職活動には力が入りませんでした。一方で、両親からは「メイクだけでは食べていけない!資生堂のような企業に入って働くならまだしも」と言われていたんですよ。
一時は夢をあきらめ、父の知人の紹介で医療事務の仕事を受けたものの、見事に落ちてしまいました。結局、卒業後すぐにヘアメイクの仕事をしている美容師の下で見習いのような形で入れてもらい、働きながら美容専門学校の通信科で免許取得を目指すことになったのです。
9.11でニューヨーク行きをやめて急遽SABFAに
お世話になった美容室では、ブライダルやテレビ撮影などのヘアメイクアップの仕事もありました。貴重な経験をさせていただき、感謝しきれません。そこで技術を養い、お金を貯め、渡米したいと考えていました。日本人のヘアメイクアップアーティストが海外で活躍している姿に憧れていたからです。いよいよ渡米しようとしたのが2000年。ニューヨークに行くつもりでしたが、9.11(同時多発テロ)が起こり、見送ることにしました。
ちょうどその時期に、SABFAの学校説明会が美容雑誌に掲載されていました。本当にたまたまそれを見たのですが、それが運命の分岐点になったんです。生まれて初めて上京し、SABFAの説明会に参加。先輩たちの作品に衝撃を受け、「ここで学びたい!」と思いました。翌年の4月から1年間、クリエイターコースに通うことになりました。
最初の半年間は、小さなプライドが自分を妨げていました。大阪での経験や学びを自負し、「ある程度自分はできる」と考えていたんです。しかし、「表現しろ」と言われても、最初は自分が何を表現したいのか全くわからなかった。先生の技術力の高さはもちろん、想像力や表現力の違いを痛感しました。
小さなプライドを捨てて、本当の意味でゼロから、SABFAでの学びを吸収しました。すると、表現することが急に楽しくなったのです。創造への欲求が目覚めた瞬間でした。その感動は、今も続いています。
資生堂のブランドを担当する喜びと苦労
SABFA卒業後、資生堂の入社試験を経て社員になりました。ヘアメイクアップの世界で働くことに反対していた母親も、資生堂に入社したことで安心してくれたようです。アーティスト育成を目的としたヘアサロンで、サロンワークの現場を学びながら先輩の撮影現場に同行しました。スキンケアの広告撮影の仕事などから徐々に独り立ちし、2013年から「インテグレート」のブランド担当となり、今年でちょうど10年になります。
ブランド広告の撮影だけでなく、商品の企画開発にも携わってきました。世の中のトレンドをキャッチし、アイカラーの質感やパレットの配色を考えるのがとても楽しいです。多くの人にその商品を手に取ってもらうためのマーケティング戦略を練ることや、SNSでの発信の仕方を考えることもあります。タレントやモデルとCMを作成している際、世の中の反応が楽しみでワクワクするんですよ。
私たちメイクアップアーティストは、メイクだけの技術だけでなく、タレントやモデルに気を配ることも当然の仕事です。その場の雰囲気を作るのも私たちの役目。お体に触れるため、その方の気持ちや悩みにも心から寄り添います。
病床でホリスティックビューティーに目覚める
今でこそ撮影の現場を楽しんでいますが、仕事に慣れていないころは入院した経験もあります。一流の先輩たちに囲まれ、その中で結果を出さなければならないプレッシャーがあり、知らず知らずのうちに体が悲鳴を上げていたのだと思います。
4ヶ月間という長い入院生活を経験しましたが、自分の体と心と向き合えたことは、自分にとってプラスでした。健康的な食事を1日3回とって、あとは体を休めるだけ。1ヶ月もすると、体は元気になりましたが、とにかく自分と向き合い続けた時間でした。病棟にあった手塚治虫さんの『ブッダ』という漫画を読み、心に響いた言葉をノートに書き留めたりしたことも。やがて体も心も整い、再び仕事に全力で取り組むことができました。
入院生活を通して、心と体の健康について深く考えるようになりました。美は健康の上に成り立つという考えを持ち、ライフワークとしてホリスティックビューティーの普及活動にも取り組んでいます。
「作品に魂を込める」経験が、人生の選択肢を増やす
現在、SABFAのメイクアップコースの担任を務めています。SABFAで夢を叶える力を育み、卒業後に活躍してもらいたい。生徒たちが「SABFAで学んだことは本当に自分のためになった」と言って卒業していく姿を見るのは、とても感動的です。
メイクアップコースは美容師免許が必須ではないため、生徒たちの背景も多様になりました。例えば、メガネ屋さんで働く生徒さんもいます。「メガネのフレームに合わせたメイク提案をしたい」と考えたことが入学のきっかけだったそうです。私が望むのは、こうした多種多様な生徒たちがSABFAで出会い、新しい化学反応を起こすこと。そして、その中で「魂を込める」経験をすることです。深く悩み、情熱を持って取り組むことで生み出される作品は、人々の心を動かす力があります。SABFAでの学びが、生徒たちの人生の選択肢を豊かにすることを心から願っています。
メイクの基礎を学べるオンラインメイクアッププログラムも開始しました。遠方に住んでいる方や、仕事や育児で忙しい方でも、無理なく学べます。生徒たちは自分の都合のいい時に講義動画を視聴し、必要に応じて何度でも繰り返し学ぶことができます。そして、リアルタイムの授業と同じく、講師からのフィードバック動画も提供。自分の作品のフィードバックだけでなく、他の生徒の作品のフィードバックも見ることで学びを深められます。質問も随時受け付けています。このように、一人ひとりの生徒にしっかりと時間を割いているオンラインプログラムは他には少ないと思います。原宿への通学が難しいと感じる方には、このプログラムを勧めたいです。
「いま大切にしている思い」
私が表現することに苦しんでいた時期、周りの評価を気にし過ぎて、自分自身を制限してしまっていたことがありました。しかし、その経験から学んだこともたくさんあります。無駄な事は1つもなく、自分にとって必要な経験だったと今では感じています。しかし、昔の私のように知らず知らずのうちに、本当のこころの声にも気づかず、自分の可能性にブレーキをかけ、息苦しさを覚えている人も多いように感じます。
私がライフワークとして行っている色彩心理やカラーセラピーの世界では、人間も虹の存在だと考えられています。一人一人に色があり、個性があり、それそれが光輝く存在です。
しかし、日々の日常の中で本来の輝きを見失うこともあるかもしれません。
そういった人たちに「もっと、ありのままの自分をさらけ出して、表現していいんだよっ」と伝えたいです。そして、もっとありのままの自分のすべてを受け入れてあげてほしい。
これからの時代は、他人と比べず、より自由に自分らしくあることを許していくことが重要になってくるのではないでしょうか。
自分の中の光を解放することで、その仕事にも魂が込められると信じています。
一覧をみる
SHARE