技術
2022.11.15
♯15「質感カット」を生み出した美容業界のイノベーター ROSE代表 高木達也
【 高木達也 】
愛知県名古屋市出身。名古屋市内の数店舗を経て2001年、三重県鈴鹿市に「ROSE」をオープン。サロンワークを中心に国内、海外セミナー、雑誌撮影、ミュージシャンやモデル、コレクションのヘアメイクなどを手掛けるほか、メーカーの商品開発にも携わる。「1万円のカット」「1万円のメイク」も話題となり、美容師の顧客も多い。著書に「『質感カット』習得マニュアル」(女性モード社)がある。
三重県鈴鹿市というローカルに位置しながら、全国にその名を轟かせる美容室「ROSE」。その代表を務める高木達也さんは、オリジナルの技術論を構築し、全国のメーカーやディーラーからも一目置かれている人物です。そんな高木さんの活躍の裏側には、SABFAでの学びもあったのだとか。そもそもどうしてSABFAに通ったのか、その経験がどう活かされているのか教えていただきました。
INDEX
世界のどこでも輝ける人こそが成功者
中学を卒業後に専門学校で学び、名古屋の美容室に住み込みで働き出したのが、僕の美容師人生の出発点でした。その後は数店舗の美容室をいくつか経験し、美容の技術を学んできました。
僕は技術の飲み込みが早いタイプだったので、技術習得にあまり苦労しませんでした。特にカット技術に関しては、テストやオーディションもスムーズにクリアできていたんです。ただ、先に進むのが早いからこそ「本当にこれでいいのか」と不安になり、テストに受からない人がどうしてできないのか、どんなところで失敗するのか自分なりに研究し、記録して技術理論を構築してきました。僕の技術が認められ、メーカーさんの依頼でセミナー講師をいただくほどになったんです。
僕は、世界のどこにいても輝けることが成功の条件だと思っています。独立することを考えたとき、名古屋での実績や人脈を活かせば成功するという確信があったものの、どこか違和感がありました。そんなとき、縁もゆかりもない三重県鈴鹿市の物件を紹介されたんです。そこは小さな漁師町で、物件の周りは田畑で囲まれていました。交通量が少ないから点滅信号があったし、1000世帯くらいしか住んでいない…でも「ここで繁盛店をつくったらめちゃくちゃカッコいいな」と思ったんです。美容室を経営する上で不利な条件ばかりだからこそワクワクしました。
カットに自信があるが、メイクは自信がなかった
いざサロンをオープンすると初日から大勢のお客さまが来てくれました。前のサロンのお客さまとは一切連絡が取れない状態でしたが、インターネットなどで調べたり、スタッフを通じて探し出したりしてくれたんです。ただ、高齢のお客さまから、「パーマが弱い」とクレームを受けたこともあります。僕はハンドブローで決まるヘアスタイルが売りだったので、くるくるのパーマが好きなお客さまに理解されないこともありました。技術が理解されるまで時間が必要でしたね(笑)
また、カット料金は5000円でスタートしましたが、それも周辺より高かったので注目されました。今はカット1万円ですが、三重でこの料金は自分以外では聞いたことがありません。お金がほしくてやっているのではなく、このエリアで1万円でもやれることを証明するチャレンジをしたかったのです。
一方で、メイクに関しては自信を持てないままでいました。また、東日本大震災後に世の中を勇気づける作品をつくりたいと思い、積極的にクリエーションをするように。そうすると、当然カットだけでは表現できない部分も出てきます。だからヘアメイクアップを学びたいと思ったし、学ぶなら最高峰の学校で学びたいと思い、SABFAを選んだんです。
SABFAは一切の甘えが許されない環境だった
入学試験の面接時に印象的だったのは、上田美江子さんの言葉です。「高木さんですね。ご活躍は存じ上げております。これから半年間、遅刻や欠席はできませんが大丈夫ですか?」と言われました。スケジュールが埋まっていましたが、咄嗟に「合格できたら全てキャンセルします」と答えることに。上田さんの鋭い視線と言葉にヒヤッとしましたね(笑)
ただ実際のところ、入学してからは本当に大変でした。三重から東京に通うだけではなく、日本全国、時には海外でセミナーをしていたので、飛び回りつつSABFAで学んでいたんです。そんな感じなので、早朝に起きて時計と睨めっこしながら課題をこなしたこともありました。今振り返ると、一体どうやってこなしていたんだろうって思います。
先生の厳しい指摘も、刺激になりました。メイクに関しては本当に恥ずかしいレベルの実力だったので、全てが自分の糧になっています。ヘアで印象的だったのは、自分としては完璧に仕上げたアップを先生が見て「高木さんはもっとできる人だと思っていました」と言われたこと。「どこがダメですか?」と尋ねると2本くらいひょろひょろと浮いている髪の毛を指摘されたんです。たった1mm、たった髪の毛1本の差が全体のクオリティや雰囲気を左右してしまう。良い意味で鼻を折られましたし、自分の「基準」を上げてくれたことに感謝しています。
技術理論をまとめた著書にはSABFAの学びも反映されている
2020年には、業界誌でカット技術の連載を1年間させて頂きました。その連載が多くの美容師さんから反響があり、これまで自分が構築してきた技術理論を『「質感カット」習得マニュアル』という一冊の本となり業界誌から発売されました。質感というとセニングで毛量を調整することだと思い込んでいたり、なんとなくの感覚でつくっていたりする美容師さんも少なくありません。そうではなく、質感をしっかりと定義し、習得マニュアルを読んだ人が、そのままサロンワークで生かせるようにしています。
そこにはもちろん、SABFAでの学びが生かされています。髪の毛1本のこだわり、感覚ではなく1mm単位の技術理論、デザインを実現するための方法論など、オリジナルの理論構築をする上で役立ちました。理想の質感を安定的に生み出すためには、感覚や経験だけではなく、理論が必要なんです。
おかげさまでROSEを立ち上げて21年目を迎えることができました。会社は10年経って1人前、20年で必要とされる会社、30年で愛される会社になると言われています。もうすぐ22年目に突入する中で、代表としての高木達也を引退すると宣言しました。次を任せられるリーダーを育てることができたし、技術のバイブル本もできましたから、それが全てではないですがやるべきことはやり切れたかなと。愛される会社を目指すのは、僕じゃなくみんなでやったほうがいいんじゃないかと思ったんです。
失敗や逆境が訪れるとワクワクする
もちろん、独立してからずっと順調だったわけではありません。スタッフたちの心が離れていき、ある朝、1人を残してスタッフがいなくなったことがありました。僕自身、若くて未熟なところはあったし、反省もしています。
でも、僕はそういう逆境のときに、チャンスだと捉えることができるんですよね。「また新しい課題を与えられた。まだまだ成長できる」と本気で思えるんです。これまでもいっぱい失敗してきているし、これからも多分、挑戦し続ける限り、失敗からは逃れられないと思います。
新しい事業にも挑戦します。今進めているのはメイクスクールの立ち上げです。すでにヘア関係の技術サービスは実績があり、ヘアケア商材に関しても日本トップクラスの売上があります。一方で、メイクにはまだまだ伸びしろがある。メイクを啓発して美意識を高めるために、一般の方向けのスクールが必要だと考えました。お客さまに合ったスキンケアの提案にもつなげていきたいと考えています。
高木達也の「座右の銘」
これは僕たちの経営理念でもあるのですが「人のために」という言葉を大切にしています。僕たちの仕事は、まさに「人に尽くすこと」です。それによって、大きな喜びが返ってくることもあります。人に尽くすことによって存在意義を感じられるし、感謝の気持ちも育まれる。そもそも、美容師は誰かの役に立たないと成り立たない仕事です。これからも、誰かの役に立つ事業を展開し続けて、僕たちの経営理念である「人のために」を実現したいです。
高木 達也 Instagram ROSE (ローズ) 「質感カット」習得マニュアルについてはこちら一覧をみる
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