SABFA magazine

ヘアメイクアップアーティスト

2022.8.29

♯10 サロンワークとヘアメイクアップの両方を大切にする理由 -資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 神宮司芳子

【 神宮司 芳子 】
2002年入社、資生堂トップヘアメイクアップアーティスト。資生堂の宣伝広告の他、モデルや女優のヘアメイクを多数手がける。2018年、資生堂美容室のエグゼクティブビューティーディレクターに就任し、サロンスタッフの育成やブランディングにも携わるかたわら、自身も精力的にサロンワークを行っている。また、様々な髪のお悩みに対する
「外見ケア」をライフワークとして取り組んでいる。「SABFA」前副校長。

美容業界最高峰の賞である「ジャパンヘアドレッシングアワーズ(JHA)」でグランプリを2度受賞し、書籍の出版やセミナー講師など幅広く活躍している資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 神宮司芳子。どんなにヘアメイクアップの活動が増えても、サロンワークを継続しており、産休中を除いて一度もハサミを離したことがないと言います。サロンワークとヘアメイクアップの両方を続ける理由は何なのか、資生堂美容室SHISEIDO PASSAGE BEAUTÉで聞きました。

サロンワークかクリエイションのどちらか一方では満足できない

ヘアメイクアップの仕事が活動の中心になると、サロンワークから離れる人も少なくありませんが、私にとっては両方なくてはならないものです。今は、資生堂ビューティークリエイションセンターでヘアメイクアップ関連の仕事をしながら、月4日間はサロンワークをしています。ヘアサロンのビジュアル撮影やスタッフ教育もしているので、業務の割合としてはヘアサロン関連がやや多いかもしれません。

JHAなどのコンテストにも作品を出し続けています。これまでに2度、グランプリを獲得しましたが、なんとかもう1度取って殿堂入りしたいと思い、チャレンジしているところです。ノミネートされているものの「あともう一歩」が続いています。

クリエイションをすることで、サロンワークだけでは見えなかったものが見えてくるし、それがサロンワークにも活きています。一方で、私は自分の世界観を表現することが好きですが、それだけになってしまったら、物足りなく感じてしまうと思います。なぜなら、私はお客様と直接話して、希望を叶えることに喜びを感じているからです。

サロンワークとクリエイティブワークの相乗効果

クリエイションをすると、サロンワークにおけるデザインの幅が広がります。自分が表現したいものをカタチにすることは意外と大変です。賞を獲得するようなものをつくることを目指したら、大胆な表現が必要になります。ちょっと踏み込んだデザインをすることによって表現の引き出しが増えるので、サロンワークの現場でも枠組みにとらわれず、よりお客様を喜ばせる仕事ができるのです。

一方で、サロンワークの経験もクリエイションでプラスに作用しています。サロンワークを続けることで、常に新製品が出続けているスタイリング剤やパーマ剤をはじめ、ヘアサロンの情報をアップデートすることもできます。トレンドやお客様のリアルな声や気分を聞けるのもサロンワークのいいところです。それをクリエイションに取り入れることもあります。

一つの世界だけを見ていると、どうしても視野が狭くなってしまうので、私はサロンワークもクリエイションも続けていきたいと思っています。

SABFAに入学したことが人生のターニングポイント

私がクリエイションを始めたのは、SABFAに入ったことがきっかけでした。もともと勤めていたヘアサロンから独立することを考えていたのですが、その前にしっかり美容の理論を勉強したいと思い、SABFAでチャレンジすることに。実はそれまで自主的に外部のコンテストに出場したことがなかったのです。

入学してからは宿題も多いし、テストもあるし、やることがいっぱいありすぎて余計なことを考える暇もありませんでした。20人の仲間と一緒に助け合いながら、必死に学んだ経験は貴重でしたね。17時に授業が終わった後と土日にはアルバイトでサロンワークしていました。だからSABFAに通っていた1年間は休んでいないことになります。

私は技術的なことを習得することは得意でしたが、自分のアイディアをクリエイティブに落とし込むことに苦手意識がありました。だからこそ、先生や仲間の力を借りて卒業制作まで作り上げた経験は自信に繋がりましたし、今クリエイティブを伝える側になり、「生徒の視点に立って論理的に教えられる」という強みになっています。

卒業後は、チャンスがあり採用試験を受けることに。「資生堂のような大きな組織でチャレンジする機会は今しかないし、ヘアサロンはいつでも出せるから」と考え直し、採用試験に合格したので、「せっかくだし2~3年は頑張ってみようかな」と思いました。結局辞めずに今に至ります。(笑)

JHAのグランプリをとってからが大変だった

資生堂入社後、JHAの最優秀新人賞を獲得し、その2年後にグランプリを獲得しましたが、この時の作品は賞を意識してつくったものではなく、業界誌のオーダーに応えるために必死につくったものだったのでまさかグランプリを取れるとは思ってなく、自分にとって驚きの出来事でした。

ただ、そこからが大変で…。周りの期待が重圧になって「次も獲らなきゃ」という気持ちに。その後準グランプリは3回ありましたが、グランプリに届かず、何度諦めようと思ったかわかりません。

やがて、子どもを出産して1年近く何もできない時期があったんです。子育てしている最中は、本当に毎日必死でした。子どものご飯をつくったり、お世話をしたり、自分の表現をする場面は一切ありません。そんな時「復帰したら早くクリエイションをしたい!」という思いが沸々と湧いてきました。それがよかったのか、復帰後にJHAの準グランプリ、その翌年にグランプリを獲得できたんですよ。

2回目のグランプリ受賞式では子どもと一緒にステージに上がりました。コンテストで上位入賞している方々は男性が多いですし、女性美容師の励みになればという気持ちもありました。そこでまた一つ、気持ちのスイッチが入りましたね

理論を習得すればコンテストで一定のレベルまでは行ける

私はクリエイションで評価されるコツが必ずあると考えています。もちろん、グランプリや準グランプリともなると、運や本人のセンスなどの要素が大きくなります。でも、誰でも一定のレベルまで持っていくことはできるんです。

大事なのは、作品の撮り方と見せ方。これは広告の仕事から学んだことですが、広告では見る人の目に焼き付けるために、必ずどこかに注目させたいポイントをつくります。そのために、コントラストをつける。それは目を引く髪の色や、大胆なカットかもしれませんが、そのコントラストの付け方を身につければ、ある程度のところまで行けるのです。

技術は反復して練習すれば必ず上手になります。ただ、技術だけ上手くても見せ方がわからないと評価に結びつかないものです。逆にセンスに自信がなくても、理論を習得すればクリエイションの底上げができるんですよ。

様々な髪のお悩みに対する「外見ケア」に貢献したい

これからより注力していきたいのは、治療のために髪の毛が抜けてしまったがん患者さんや脱毛症など、様々な髪のお悩みに対する外見ケアです。
私は作品制作でウィッグをたくさん使い、その中で得たノウハウを蓄積してきました。ウィッグの扱いには自信があるので、それを外見ケアや年配で髪の毛が薄くなった方のために役立てたいと思っています。

がん治療をしている方のお悩みは、やはり髪の毛がなくなることです。2人に1人ががんにかかる時代の中で、働きながら治療をすることが当たり前になりつつあります。ますます外見ケアの重要性が増してくると思うのです。
なので、ウィッグの需要は間違いなくありますし、もっと当たり前にしていきたいので、セミナーなどを通じてウィッグを上手に扱える美容師さんを増やしていきたいですね。

PASSAGE BEAUTE MANAGER 大城勇作さんと店内で撮影

神宮司芳子の「座右の銘」

「笑う門には福来る」が座右の銘です。若いころは自分のことに必死で、自分のキャリアや技術、自分を表現することに一生懸命でした。それからキャリアを重ね、子育ても大変な時期が、それが落ち着いてきて、今度は心のベクトルが外に向かい始めました。まわりの人をハッピーになってもらいたいというマインドが強く出てきたのですクリエイションはもちろんやりたいし、ヘアデザインコンテストにもチャレンジしていますが、自分だけの表現ではなく、まわりの人もハッピーにできるようなアクションを起こし続けたいと思っています。

サロンワークはこの先もずっと続けていくつもりです。お客様とマンツーマンで向き合い、喜んで帰っていく姿をお見送りするのが一番楽しいです。年を重ねるたびに美容師という仕事は本当に素敵だなと思っているので、生涯現役美容師でいたいと思っています。

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