感性
2022.7.25
♯8 世界のビューティーアワードに作品を出し続ける理由- jiyume沢丸保切さん
【 沢丸保切 :Sawamaru Pokiru 】
埼玉県生まれ、東京育ち。高校2年生の夏から美容師見習いをスタート。その後、店舗規模や営業形態が異なる美容室で経験を積み30歳で独立。「jiyume」を立ち上げる。SABFAサロンメイクアップコースとアドバンスヘアコースで学び、サロンワークと作品撮影に活かしている。世界のビューティーアワード、フォトアワードで評価されており、International Beauty Industry Awards(IBI)2022では世界1位に輝いた。
Japan Hairdressing Awards 2021「SALON TEAM OF THE YEAR」 Finalistなど国内外のビューティーアワードやフォトアワードで高く評価されている沢丸保切(Sawamaru Pokiru)さん。現在に至るまでの歩みとSABFAでヘアメイクアップを学んだことがどのように活かされているのか、そして、国内外のコンテストに作品を出し続ける理由について聞きました。
INDEX
独立するまでに約10店舗の美容室で経験を積む
高校2年生の夏に、近所の美容室に飛び込みで入って「働かせてください」とお願いし、見習いで働き始めたのが、僕の美容師生活の始まりでした。レッスンを見てくれる先輩を待たせたまま遊びに行ってしまうなど、若い頃はちゃらんぽらんで迷惑をかけることもありましたが(笑)、美容師の仕事自体は好きでした。
30歳で独立することを目標に、個人店やチェーン店、高価格帯の美容室から低価格帯の美容室まで多様な美容室で経験を積みました。流れ作業のような仕事が嫌になり個人店に移ったけれど、新規のお客さまが全くいないので、また環境を変えるというようなことをしていましたね。その中で一番自分に合っていたのが最初から最後までマンツーマンで接客する美容室。自分が美容室のオーナーになってからも同じスタイルでやっています。
さまざまな環境で美容師をして感じたのは、教育の内容と質がバラバラだということ。それでは良くないので、3年くらいかけてオリジナルの教育マニュアルをつくりました。27歳くらいからは具体的に資金面の準備や店舗のプランニングをして、満を持して30歳で1店舗目をオープン。最初は1人でスタートしましたが、やがてスタッフが増えて、今は美容室2店舗、撮影スタジオとデザイン事務所を構えています。
SABFAで学んだのはメイク技術だけではなかった
僕がメイクを学ぶようになったのは比較的最近のことです。以前はメイクをスタッフに任せきりで、それが心苦しかったんですよね。オーナーが新しい学びや気づきを常に持っていないと、スタッフに教えられることも限られてしまうので、メイクにチャレンジすることに。SABFAを選んだのは、個人的に美容業界最高峰の学校だと思っていたからです。
コロナ前だったので、遠方から通う生徒も多く、なかには中国から通っている生徒もいました。人生をかける意気込みで学びにきている人たちに負けたくなかったので、どんなに忙しくても1日2人のモデルさんにメイクを施して、先生にフィードバックをもらっていました。半年間の中で養った審美眼や知識、そして技術は今も活きています。
自分の中で大きな気づきだったのは、ヘアメイクアップは人が人に対してするものだから、信頼関係が大事だということ。また、現場での立ち居振る舞いや作法などの重要性を、現役で活躍している講師から学べて良かったです。
入学当初、レッスンで使うメイク道具が揃っているか確認するとき、リップブラシがどれだかわからず、隣の女性に教えてもらっていたくらい、僕はメイクに関して無知でした。卒業後はサロンワークでお客さまにアドバイスができるようになりましたし、自信を持ってメイクを施すことができるようなりました。
美容師歴が長いから、「できるつもり」になっていた
メイクはできるようになったものの、今度は自分で作品撮りをしているとき、撮影技術がイマイチだということに気づきました。それがきっかけで写真学校に通い、人物だけではなく、シズル感のある料理の撮影の仕方など、撮影技術を幅広く学ぶことに。卒業後にスタジオをつくり、カメラ機材を揃えて撮影するようになると、今度は「ヘアの技術が足りない」と感じるようになったのです。ちょうどその頃SABFAで「アドバンスヘアコース」が始まると知り、1期生として入学しました。
僕は、美容師歴が20年以上ありますし、ヘアの写真を見ればどうやってつくるか大体わかります。お客さまの好みもわかるので、ヘアデザインをする上で間違えることはありません。100点中80点のものはできていると思います。けれど、80点から上はやってこなかったことに気付かされたと言うか…学びながら自分の甘さを痛感しました。
自分的には「お手本を100%再現できた」と思っても、講師のつくったものを比べると違うのです。見せるポイントを絞って余計な部分を削ぎ落とすとか、見せるポイントのボリュームを出してメリハリをつけるとか、頭の中では分かっていても、実現する技術がなかった。ボリュームを出して大きくする技術が足りずに途中でボリュームダウンしてしまうなんてことは、撮影では致命的なことです。
講師はあらゆる技術を高いレベルで見せてくれましたし、しかも速くて正確でした。ハイレベルな講師を追いかけたおかげで、自分も成長できたと思っています。
アワードで世界一位になったことも…でも欲しいのは評価ではない
そして今、国内外のビューティーアワードやフォトアワードに参加しています。世界数十カ国からアーティストが参加するInternational Beauty Industry Awards(IBI)2022では、世界1位の称号をいただきました。そのほか、International Photography Awards(IPA) 2021では、世界2位に選ばれています。
僕が世界のアワードに参加しているのは、SNSで情報共有してくれる方がいるからです。自分の作品を観て「あなたのファンです。きっと評価されるからこのアワードに参加してみませんか?」と紹介してくれることがあるのです。
アワードを受賞することはもちろん嬉しいですが、一番の目的はそこではありません。自分の世界観を表現したとき、それが人の目からどう見えるのか知りたかった。自分の世界観がどう評価されるのかを自分の判断材料にすることで、より高みを目指せると思っています。
日本だけではなく世界のアワードに出しているので、評価の違いが興味深いです。僕の作品を海外の人は「エキゾチックだ」と絶賛してくれたりします。また、「コントラストを意識した作品は印象に残りやすい」とか、大事なことを確認する機会になっています。そうした学びを整理していきながら、自分が本当につくりたいものをつくる。それこそが僕がやりたいことなのです。
作品の背景にあるストーリーを徹底的に落とし込む
自分がつくりたい作品は、僕の内面を映しています。不屈の心で生き抜く民族とか、そういうテーマに心惹かれるのです。例えば、住処を脅かされて山岳地帯だとか住みづらいところに押しやられている民族がいるとします。その人たちは、生きるために必死で戦争をするための武器を運ぶ仕事を渋々やっている。同じ民族なのに、その敵国の武器を運ぶ人たちもいて、同じ民族同士で戦う羽目になってしまった。でもどんな逆境にあっても力強く生きていく…とか、そんなストーリーが作品に込められています。大体1年くらいかけて作品をつくっているから、僕の作品数は比較的少ないのです。
テーマを決めたら必ず書籍やネットで情報を集めて理解を深めていきます。民族の話は非常にシビアで、タブーを抱えていることもあるのです。だから作品のステートメント・キャプションを書くときはとても慎重になります。コピーライターさんに触れてはいけない内容を避けてもらい、海外に出すときは英語の先生に英訳をしてもらいます。ストーリーをしっかり届けたいからです。
ゆりかごから墓場まで、人の一生に寄り添う美容師であり続けたい
近所にお気に入りのコーヒーショップがあるのですが、そこのバリスタさんが世界大会で上位に入賞した経験があるそうです。それを聞いて「なんで早く言ってくれなかったんですか!」と思わず言ってしまいました。バリスタさんの実力を知ってから、コーヒーショップで過ごす時間がより特別なものになっています。
これと同じことを、自分の美容室でやりたいと僕は思っています。担当美容師が世界一になった経験を持っていたら、より価値を感じてもらえるかもしれません。美容系のアワードには今後も参加したいと思っていますが、一番やりたいのは、美容師としてお客さまの人生に関わること。七五三や成人式、入学式、結婚式など、その節々で美容師の力を役立てることができるし、写真に残すことも大事だと思うのです。せっかくだから、最も美しい一瞬を切り取りたい。自分が培ってきた技術を、そのために役立てていきたいと思っています。
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