SABFA magazine

ヘアメイクアップアーティスト

2022.7.4

♯6 フリーランスのヘアメイクアップアーティストの魅力って?― 合同会社atelier decopa 代表 Hair&Make-up タナベ コウタさん

【 田邉 浩太:タナベ コウタ 】
東京都出身。国際文化理容美容専門学校渋谷校卒業。2000年SABFA卒業後、ヘアアーティスト伊藤五郎氏に師事。2005年に独立後は、雑誌、広告、ショー、映像作品、ライブ等のヘアメイクアップに幅広く携わる。多くの芸能人や著名人も担当。

大物ミュージシャンからも信頼されるヘアメイクアップアーティスト、タナベコウタさん。フリーランスとして15年以上のキャリアを重ねています。そんな彼に、SABFAを卒業してから独り立ちをするまでの話や、日々の活動内容などとあわせて、フリーランスのヘアメイクアップアーティストの魅力を聞きました。

下積み期間は6年、ヘアデザインの革命児・伊藤五郎氏に師事

フリーランスのヘアメイクアップアーティストは免許があるわけではないので、いつ始めるかは自分で決めるしかないんです。私の場合は、ヘアデザインの革命児と呼ばれた伊藤五郎さんに師事し6年ほど修行をしたのち、独立しました。師匠から独立を促されたわけでもなく、自信があったからでもなく、20代後半に差し掛かり、年齢的に「そろそろ独り立ちをしたい」と思ったことがきっかけ。一人前の基準みたいなものもない世界なんです。

下積みは長かったのですが、この業界は下積み経験が長い人ほど長く幅広く活躍している方が多いように感じます。おそらく、師匠が手がけるさまざまな現場で、見て、感じて、学ぶことができるから。反対に下積みが短い人は、できる仕事の範囲がそれほど広くなかったり、先輩たちが過去に犯してしまった過ちを知らずに自分もしてしまう、ということもありえます。

独立して間もない頃は、ファッション誌などに営業活動をすることもありましたが、ほとんどの仕事は紹介から始まっています。「いい仕事をすると、また次の仕事をいただける」という感じなので、何かのきっかけで仕事が一気に増えたという経験は僕自身はありません。少しずつ仕事が増える一方で、なくなる仕事もありました。でもそんなものだと思うんですよ。

フリーランスのヘアメイクアップアーティストにも「場を盛り上げるのが得意な人」「ヘアメイクアップの技術で勝負する人」などいろんな人がいます。出演前にテンションを上げてくれるヘアメイクアップアーティストさんが好きというタレントさんは結構多いんですね。僕はそれができないんですけれど(笑~)。

だから僕はどちらかというと「仕上がりが一番大事」というタレントさんと相性が良いです。指名をいただくこと、長いお付き合いになることが多く、有名なミュージシャンや俳優さんからもご依頼をいただいています。

舞台、表彰台、コレクション、イベントなど活躍する現場はさまざま

ヘアメイクアップアーティストは担当するタレントさんが表舞台に立つときに舞台裏でする仕事なので、スケジュールはタレントさんありきです。どんなタイミングでお呼びがかかるか、読みづらい仕事ではあります。突然依頼をいただいたりして、急遽仕事が入ることもありますね。

ファッションショーなどの大きな現場では、ヘアメイクアップアーティストの人手が必要なため紹介で仕事が入ってくることもあります。SABFAを卒業していることもあり、資生堂からお仕事をいただくことも。そうしたつながりから仕事が広がるのも、フリーランスのヘアメイクアップアーティストの特徴だと思います。技術や人柄が信頼できる相手にしか仕事を頼めないですから、頼られるのはうれしいことですね。

現場ではタレントさんに感謝されますし、仕事の喜びを日々感じています。手がけたタレントさんが輝く姿を見るのは嬉しいものです。ヘアメイクアップアーティストとして国際的なイベントに参加することもありますし、ファッション誌や広告の場合はクレジットに名前が載ることもあります。

ファッション誌のクレジットに名前が残るヘアメイクアップアーティストに憧れて

クレジットに名前が載るというのは、ヘアメイクアップアーティストを志すことになったきっかけでもあるんです。中学生の頃からファッションや髪型に興味があり、メンズノンノなどのファッション誌を購読していました。誌面の中には、モデルやファッションスタイリスト、ヘアメイクアップアーティストのクレジットが載っていました。「名前が残る仕事っていいな」って思ったんですよね。そのころからこの職業に就くことを心に決めていました。

高校卒業後は美容専門学校に進学。ヘアメイクアップアーティストを志望する気持ちはブレませんでしたが、当時は1年学校で勉強した後、美容室で実地経験を積みながら美容師の国家資格を取得するという流れでした。だからどんなに現場の環境が辛くても最低2年間はその美容室で働いて、免許を取ってから辞めようかなと。

そして2年経ち、(辛かったので…)他の美容室に転職しようとしましたが、その前にSABFAを1度受けておこうと思ったんです。いつかまたSABFAを受けるときに経験が有利に働くかなと思って。
僕が学んでいた1999年当時は、川原文洋さん、森川丈二さんが人気で、2人から学びたいからSABFAに行くという人もたくさんいました。経営していたサロンを他の人に譲って学びに来た人がいたほどだったんですよ。

森川丈二さんの特別授業が、数年後の僕にもたらしたもの

僕がSABFAで学んだのは20年以上前のことですが、今も忘れられない講義があります。ひとつは、森川丈二さんの特別授業です。

ふわふわっとしたおさげの可愛らしい作品をつくっていたのですが、最後のメイクアップのときに森川さんは手にインクをつけて、手形のままモデルさんの口元にベタッとスタンプしたんです。それで終わり。「なんじゃそりゃ!」みたいな驚きがありました。もちろん作品は全体的にかわいいし、今も忘れないほど印象的なものだったんですよね。

その後、SABFAを卒業してから僕は、何かの資料集めをしていたのか、ネイティブアメリカン系の民族の本を読んでいたんです。その中に、森川さんがモデルさんの顔にした装飾があったんですね。「あの時に見たのはこれだったのか!」と。森川さんはきっとここからインスピレーションを得たのだろうと感じたんです。

僕もいつかデザインとして使いたいと思っていて、美容業界誌のページをいただいたタイミングで作品に落とし込みました。作品についてインタビューされる機会もいただき、思い出の仕事になりました。森川さんは作品づくりを通じて、大切なことを教えてくださったのです。

目からウロコだった「作品の中に緊張感を込める」という発想

もう一つ、SABFAの授業で印象的だったのは「作品の中に緊張感を込める」という話です。確か色彩造形の授業だったと思います。「緊張感のあるデザイン」とはどういうことか。例えば、ペットボトルが机の隅っこに置いてあり、今にも落ちそうだったら気になりますよね。机の真ん中に置いてある場合は、そうはならない。

同期の一人は、巨大な毒キノコみたいなアート作品をつくったんですよ。しかもそれが微妙に揺れるんです。だから目をひきますよね。今にも倒れそうで気になってしまう。
デザインとして綺麗にまとまっている安定した美しさも大事ですが、崩れそうで崩れない目をひく不安定な美しさも大事なんだと思いました。

SABFAを卒業してから22年経ち、フリーランスのヘアメイクアップアーティストになって17年経ちました。新しい挑戦として、2022年2月に「pati fani (パチファニ)」というヘア&メイクアップ&アイゾーンメイクアップを提供するサロンをつくりました。お客さまをお迎えするのと同時に、仲間と一緒にチームで活動を展開していきたいと思っています。今までは基本的に一人で仕事を受けて、一人でやってきました。

でもこれからは、コレクションなどの大きい仕事が入ったときにも対応しやすくなりますし、仕事の幅がさらに広がりそうです。自分の裁量で働くことができるフリーランスのヘアメイクアップアーティストのいいところと、一人だけでは限界があるという弱点を補って、より多くの人の役に立ちたいと思っています。

「pati fani (パチファニ)」の店内のインテリア

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