SABFA magazine

モデル

2022.10.31

♯14 creative SHOWER –美と、感性を、あびる時間– 冨永 愛 navigated by 計良 宏文&呉 佳子 『冨永愛の流儀』

美容技術者をはじめ、美に携わる方々にとって自身のクリエイティビティや仕事に新たな価値を生み出し、表現の幅を広げる機会を目指すイベント「creative SHOWER」。毎回豪華なゲストを講師としてお迎えしています。

第4回目のゲスト講師は世界のトップモデルとして活躍されてきた冨永愛さん。パリ・NY・ミラノ・ロンドンという世界4大コレクションのランウェイを渡り歩き、ここ数年はモデル活動の他、TV出演やイベントパーソナリティ、俳優など活躍の幅を広げられ、社会貢献活動もされています。そんな冨永愛さんの‘流儀‘を紐解きました。

ナビゲーターは、広告やショーなどで冨永さんのヘアを担当しているSABFA校長の資生堂トップヘアメイクアップアーティスト・計良宏文と資生堂ファッションディレクター・呉佳子です。本記事ではイベント当日の様子をダイジェストでお届けします。

【 冨永 愛(トミナガ アイ)】
神奈川県出身。17歳でNYコレクションにてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍。モデルの他、テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティ、女優など様々な分野にも精力的に挑戦。日本人として唯一無二のキャリアを持つスーパーモデルとして、チャリティ・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動など、その活躍の場をクリエイティブに広げている。公益財団法人ジョイセフ アンバサダー、エシカルライフスタイルSDGs アンバサダー(消費者庁)、ITOCHU SDGs STUDIO エバンジェリスト。

【 計良 宏文(ケラ ヒロフミ)】
新潟県出身。資生堂美容技術専門学校卒業。資生堂トップヘアメイクアップアーティスト。インターコワフュール・ジャパン理事、日本ヘアデザイン協会(NHDK)ニューヘアモード創作設定委員長、資生堂美容技術専門学校テクニカル・ダイレクター、一般社団法人ジャパン・ビューティーメソッド協会 上級認定講師。著書に、クリエイションの基礎から応用までを丁寧に解説した実用書「KERAREATION」(女性モード社)がある。

【 呉 佳子(ゴ ヨシコ)】
東京都出身。資生堂ファッションディレクター。ファッショントレンド研究およびトレンド予測を担当 する。ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る。国内外の最新トレンドの分析により、その背景にある時代の流れを的確にとらえ、 マーケットのトレンド動向、流行カラー、消費者ライフスタイルなど、分かりやすく解説。

15歳ですでに175cm! 読者モデルとしてデビュー

計良 実は、僕は冨永さんがまだ中学生くらいのとき、コレクションのバックステージでお会いしているんですよ。そこで「すごいバランスの子がいる」と僕たちメイクチームが盛り上がったんです。

「僕がメイクしたい」ってみんなに言っていたのに、気づいたら後輩がメイクして、結局させてもらえなかった思い出があります。片思いの告白みたいになっちゃいましたけれど(笑)。

冨永 そう考えると、長いお付き合いになりますね。

そんな愛さんがモデルになった経緯を教えていただけますか。

冨永 私は15歳で175cm身長があったのでコンプレックスだったんです。でもそれをポジティブに思えるようになるために、読者モデルに応募して、オーディションを受けて、そこからスタートしています。

計良 顔も小さいし、手足も長いし、身長も高いし、もともと意識はしていたんですか。

冨永 小学校の先生に「モデルみたいだね」と言われたことがありましたけど、全然意識はしていなくて。卒業文集にも「アナウンサーになりたい」と書いていました。
モデルの世界に憧れていたわけでもないし、興味もあまりなかったんですよね。私は17歳でニューヨークに行くことになるんですが、そのとき初めて「海外にもモデルの仕事があるんだ」と知ったくらいです。

計良 そこから成功したきっかけは?

冨永 一番有名なのがVOGUEの写真だと思います。学校終わりに制服のままスタジオに入ることがよくあったんです。フォトグラファーのレイモンド・メイヤーが面白いからそのまま撮ろうと言って、ヘアメイクもせずにカシャカシャ撮って、それが載っちゃったんですよ。ボタンが外れているので安全ピンで留めていた自前の制服の写真で、メイクもしていなくて、今みると恥ずかしいんですけれど。

計良 世界のフォトグラファーやファッション業界の人たちが見たときに、「この写真が素敵だ」と思われたことが大きかったんですね。

冨永 日本のギャル文化が世界から注目されていた時代でしたしね。ジョン・ガリアーノが、日本のギャルのファッションを見て、自分のコレクションに転換させたっていう話を聞いたことがありますし。

計良 なるほど、そうした転機があって注目され、大きなコレクションなどでの活躍につながったわけですね。

コレクションが映すファンタジーな世界の裏側

計良 「このコレクションは大変だった!」というものもありましたか。

冨永 大変じゃないコレクションのほうが少ないくらい。ジョン・ガリアーノのオートクチュールコレクションでは、ヘッドピースも含めて全部ビーズやクリスタルでつくられたドレスを着ました。重量は多分数十キロ。十二単よりも重かったと思う。しかも、海外のランウェイは長いんですよね。

すごく息が切れるけど苦しんだ顔ができない。海外はリハーサルもあんまりしないから行き当たりばったりの部分もあるし、モデルは求められるものを表現する瞬発力も必要なんだなって思いました。

本当にモデルとして試されるランウェイでしたが、ジョン・ガリアーノのコレクションは、創造性に溢れている超エンターテイメントじゃないですか。すごい経験だったなと思います。

計良 クリエイティブの極限までいって「こんな表現ありなの?」みたいな世界でしたね。ファンタジーというか。

冨永 リアルでは着ないだろうっていう服であったとしても、やっぱりそこからパワーをもらったりとか、心に届く何かがある。ファンタジーの要素はすごく大事だなと思います。

そのファンタジーを伝えるモデルの仕事は、愛さんの定義でいうと、どういうふうに捉えていますか。

冨永 いやまだ定義は全然できないですね。ただ、モデルは表現者であるのには間違いないし、その世界観をつくる一つの要素だと思いますね

丹田を意識し、美しい姿勢をつくる

計良 私は猫背のため、身長が高く見えないのですが175cmあるんですよ。それに比べて愛さんが颯爽と歩く姿はかっこいいし、立ち姿も美しいですよね。

冨永 モデルは服が美しく見える歩き方をするときに、丹田を意識して使っているんですよ。

計良 丹田というのはなんですか?

冨永 おへそのちょっと下の部分なんですけれど、そこを意識して力を入れるんです。座っているときも同じで、丹田に力を入れるとすっと背中が伸びません?

計良 確かに。歩くときや立つときも丹田を意識しているということですね。

冨永 そうですね。立つときは胸の中央にある胸骨を斜め上に向かって開くイメージにするといいと思います。

計良 ありがとうございます。丹田と胸骨を意識するだけで、姿勢もきれいになっていますね。今日はこの姿勢で頑張ってみます

緊張感との付き合い方

私は、愛さんの不動のマインドというか、落ち着きみたいなものを支えている日々の意識やお手入れなどを聞いてみたいです。

冨永 こういう見た目なので緊張しても表に出ないだけであって、例えば俳優の仕事など新しいことにチャレンジするときは、胃が痛くなっちゃうくらい緊張するんですよ。
でも、緊張することは、自分が頑張っている証拠だと思う。その緊張というエネルギーをうまく前に進むための力に変えていく。完璧にはできないんですけれど、そう考えると成長する方向へ自分をコントロールできるような気がします。

あとは目標を持って、やるべきことを継続することですね。モデルとしてずっと活動していきたいから、そこに向かってやるべきことをやる。でも100%を続けるのは難しいから80%くらいでもいいと思っています。「やらなきゃ」っていうマインドは負担になるから、心のバランスを取れるくらいがいいです。
スクワットを毎日50回やるのもいいけど、やりたくない日は休んでもいい。
やらない自分を許すことも大事かなと思います。

17歳の冨永章胤さんがモデルデビュー

計良 最近、息子さんもモデルデビューして、親子で仕事もされていて。カッコいい親子ですよね。

冨永 自分の息子なので、カッコいいかどうかわからないんですけれど。

計良 いや、カッコいいです。身長も188cmあって顔の小ささから何から素敵です。

冨永 恐縮でございます。これまでお世話になったみなさんが、親戚みたいな感じで息子のデビューを応援してくれています。

計良 僕も、微笑ましいと思う気持ちと、頑張ってほしい気持ちでいっぱいです。ちょうどタイムリーだったので、息子さんのことも聞いてみたいと思っていました。

冨永 愚息でございます。

計良 撮影にあたって愛さんからアドバイスされたのですか?

冨永 プロダクトの持ち方をどうしたらいいかなってことで、2人で鏡の前であれこれ話して「お母さんだったらこう持つよ」って見せたけど、「いやそれは女の人の持ち方だよね」と。そして「なるほど自分で考えるしかないね」と話したんですけれど。
ウォーキングも男性と女性では本当に違うから、教えられないんですよね。男性って前のめりで、いかつい感じで歩くじゃないですか。

計良 そうか。意外と教えられないものなんですね

先入観を持ちすぎず、ニュートラルな状態で現場に入る

計良 愛さんはモデルとして被写体になるときに、どんなことを意識しているんですか

冨永 撮影に入るときはニュートラルでいるようにしています。ヘアメイクをしていただいて、衣装を着るとスイッチが入るんですよ。でも、どんなポージングをして、どういう感じで取るかっていうのは、あまり決めないまま入ります。
「こんな服だから、こういうポーズしたら服が綺麗に見えるんだ」っていうのはもちろんあるんですけど、ニュートラルでいないと、そのカメラマンさんが撮りたいイメージからズレてしまう。カメラマンさんと意思疎通しながら決めていくし、その間にヘアメイクさんも、スタイリストさんも入って、みんなで世界観をつくっていくんです。

計良 我々ヘアメイクも7、8割くらい準備していくけれど、残りの2、3割は現場に入ってからですね。似たような感覚かもしれないです。ポージングの話でいくと、美しく見える法則があるんでしょうか。

冨永 『美の法則』という本にも書いてあるんですが、斜めの法則というものがありまして。垂直に立つよりも、斜めに立ったほうが足も長く見えるとか、見え方が変わるんです

計良 では、愛さんのポージングを会場のみなさんにも見てもらうために、本日はスペシャルゲストとして、フォトグラファーのアンディさんをお呼びしています。シンガポール出身で、資生堂の広告をはじめ、さまざまな分野で活躍されています。せっかくなので、トップモデルとトップフォトグラファーの撮影をライブでお見せしたいと思っています。

<撮影ライブではヘアメイクとして計良も参加し、素敵な作品を会場のみなさまにお見せしました>

モデルはカメレオンであれ

計良 撮影後、あがってきた写真を見ながら、「僕はこれがいい」「私はこれがいい」ってみんなで好き勝手に話しますよね。

冨永 私自身は、「自分はこれが好きだからこれにしてください」っていう言い方はしないようにしているんですよ。そうするとイメージが固定化されてしまうから。

イメージを単一的にしたくないんですよ。ファッションモデルの山口小夜子さんがよくおっしゃっていた言葉に「モデルはカメレオンであれ」というものがあります。モデルは色々な服を着ますし、変化していくものなんです。だから、イメージも多彩であったほうがいい。どんな服がきても、どんなメイクがきても、「どんとこい」みたいな気概でいます。
ちなみに、本当にいろいろなメイクをされましたけれど、私の時代はアジア人のモデルはトップモデルに入れてもらえなかったので、ヘアメイクさんもアジア人の顔に慣れていなかったんですよね。
ですから、現場に日本人のヘアメイクさんがいると安心しました。計良さんを見つけたとき、「計良さんメイクしてー!」ってお願いしたこともありましたよね。

計良 確かに「安心する」って言ってくれました。世界に通用するモデルになるために、やはり苦労もあったわけですね。

冨永さんの「クリエイティブシャワー」とは?

計良 撮影の話題から少し離れますが、冨永さんは随分前からSDGsにつながる活動をされています。そのきっかけを教えていただけますか。

冨永 もともと家の裏に山があるような田舎育ちだから、自然の尊厳であるとか、自然とともに生きていくという考え方が培われていたのだと思います。
また、自分の息子が生まれたとき、安心・安全な食事をさせてあげたいと思いました。やっぱり農薬のことが気になるし、無農薬野菜ってどうやってつくるんだろうとか、日本はどういう農業をしてきたんだろうと興味がわきまして。

また、私が今携わっている団体に、「ジョイセフ」というものがあります。これは途上国の妊婦さんと子どもの健康を守る団体です。単純に自分が興味を持っていることが、SDGsの範疇だったということです。

計良 すごく時代性にあっている取り組みだなと思っていたのですが、もともと興味があったんですね。

冨永 私は好奇心が強いタイプなんですよ。生まれ変わったら宇宙の研究をしたいし、宇宙飛行士になりたいと思っています。自然も好きだし、食事も好きだし、日本の歴史や着物にも興味がある。日本の文化もすごく好き。本当に人生は勉強だと思っていて、興味があることを調べていくだけでも勉強になりますよね。

本当に話題が尽きないんですけれど、最後の質問をさせてください。愛さんにとっての「クリエイティブシャワー」とはなんでしょうか。

冨永 自分の五感が刺激されてフルに使えている瞬間、ですかね。私の場合は自然の中にいるときなんですよ。自然の中で、風を感じたり、その温度や質感、湿度、太陽の日差し、匂い、小鳥や虫の存在や、季節感など、その全てを自分の体で感じているときですね。「この感覚は、モデルにとって大事だな」とも思うんですよ。感受性が試される仕事でもあるから。五感を研ぎ澄ますことによって、現場で「ピン」とくることもある。迷ったときも「こっちだな」って選べる。撮影しているときも「この動きだな」って閃く。

だから、自分がつま先から頭の先まで、自然の中でシャワーを浴びることこそが、私にとってのクリエイティブシャワーですね。

衣装クレジット
トップス&スカート/ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ)
ジュエリー/RATHEL & WOLF(ラッツェル アンド ウォルフ)
ブーツ/COLE HAAN(コール ハーン)

次回もご期待ください。creative SHOWERは10月3日(月)より新たに月額会員制オンラインサロンに進化いたしました。今後も豪華なゲスト講師をお招きし展開してまいります。詳細・今後の 開催情報はSABFAのHPよりご覧いただけます。ぜひご参加ください。
※ご参加頂くには会員登録(有料)が必要です。

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