SABFA magazine

クリエイション

2022.7.19

♯7 活躍し続けるヘアメイクアップアーティストには何が必要?Vol.2― 資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 原田 忠

【 原田 忠 】
航空自衛隊員から美容師に転身。資生堂入社後、NY・パリ・上海・東京コレクションのバックステージや宣伝広告ヘアメイク、商品開発に携わる。著名アーティストのCDジャケット、ミュージックビデオにビューティーディレクターとして参画。人気漫画やアニメをヘア&メイクアップとファッションでビジュアル化するなど新たな表現にも挑戦し、国内外から高く評価される。

資生堂トップヘアメイクアップアーティストとして国内外で活躍し、2016年から2019年までSABFA校長も務めた原田 忠。美容の枠組みに捉われない表現に挑戦し続けており、漫画やアニメなどの人気コンテンツをビューティーに昇華した人物としても知られます。そんな彼が長年活躍し続ける理由を紐解くインタビューです。

好きなものに没頭すれば、それがアウトプットに反映される

僕は興味があることに没頭していると、それがクリエイションにも反映されるタイプの人間です。身近なところでいうと、週に4、5本は映画を観ているんですよ。アクション系のものもヒューマンタッチのものも関係なく、かなり幅広いジャンルの作品を観ています。話題の作品やヒット作も観るし、有名ではないけれど気になる作品なども観ます。何かを吸収しようというより、純粋に作品との出会いを楽しんでいるんです。

最近はミュージカルの舞台に足を運ぶことが増えました。ミュージカルには観客を惹きつける音楽や照明、舞台装置などの要素がある。仕事柄、髪に目がいきがちではあるんですが、歌と音楽をシンクロさせながらストーリーを進めていく舞台はやはり迫力があります。

映画やミュージカルをクリエイションにつなげようと意識していませんが、通じるところはあります。ミュージカルはそれぞれ役柄があるし、場面転換もある。クリエイションも同じで、ストーリーが込められることで俄然、表現に説得力が出てくる。逆に奥行きのないストーリーだと表現も浅いものになるんですよね。

これは漫画家や小説家などの創作でも同じだと思います。漫画の主人公には、生まれと育ち、好きな食べ物、恋愛観など詳細なプロフィールや設定がありますよね。それが主人公らしさをつくる。僕も同じで、人物像を詳細にイメージした上でクリエイションをしているんです。

現場に入る前に90%準備しているから、100%にすぐ到達する

頭の中でイメージしているものを生み出すために、実際に手を動かしてみると頭の中にあったイメージと違うものができたり、イメージしたものを超えるものができたりする。なかなかイメージ通りにならないから工夫が生まれるし、手の動作を変えることで新しい質感をつくることができたり、気づきや発想が生まれたりするものです。

また、想像を超えるクリエイションは、現場の化学反応からも生まれます。現場のフォトグラファーなど関わる人の感性が交わった結果、撮影後の画を見て「想像を超えたな」って感じるんですよね。だから、現場で頑なに自分の考えを通すようなことはしません。

一方で、世界観をつくるためには、現場に入る前に入念な準備をして、リーダーシップをとる必要があります。やりたいことを明確に伝えて、目指すべき方向に進めていきたい。だから僕は、現場に入る前に90%くらいの完成度のものをつくっていきます。

90%準備していたら、100%にすぐ到達する。準備をしているから120%とか150%とか、プラスαのものが生まれる。中途半端な準備では、100%に到達するまでに時間がかかるんです。準備しすぎたなと思うことも稀にありますが、現場で迷わない為にも徹底的に準備をしていくようにしています。

人気漫画にインスパイアされた作品が、新たな扉を開いてくれた

自分に対する「世の中からの評価が変わったな」と感じたのは、少年漫画や映画をモチーフにした作品を出してからですね。ただ単に人気コンテンツにインスパイアされた作品をつくるのではなく、ビューティーに昇華したものを発表した人がいなかったのもあると思います。美容業界にとどまらず、作品が一人歩きしていく感覚が新鮮で、「新たな領域に入ったな」と感じたんですよね。さまざまな人の目にとまって、そこから新たな仕事をいただいたりして「作品につないでもらった」という感覚がありました。

作品が多くの人の目にとまったことで新たな責任も感じました。僕がモチーフにした漫画は、自分を含めて熱烈なファンが多いんです。その人たちの期待を裏切らないためにも、中途半端なことはできません。技術的なクオリティもそうだし、細部までこだわり抜き、計算し尽くされた、鬼気迫るものだけが、人の目にぐっと入り込むのだと思います。

SABFAは、新たな気づきを与えてくれた場所

自分自身のターニングポイントをもうひとつあげるとしたら、SABFAでの学びですね。例えば、クリエイションするために多角的な視点が必要だということ。ファッションもそうだし、一人ひとりの感性の違いなどもそうなんですが、ヘアだけでは完結しません。また、同じ課題をやっているのに、つくる人によって違うものができあがる。「着地点は人それぞれ違っていいんだ」というのも大切な気づきでしたね。

僕にとってのSABFAは、新しい表現の扉をちょっと開けてくれる場所というイメージ。入り口の場所は示してくれるけど、その扉を大きく開けて踏み入れるか入れないかは自分次第。だけど、扉をちょっと開けてくれることがすごく大事なんです。入口に気づかないまま美容人生が終わることもありえたわけですから。

何かをつくるときのプロセスを学んだことも大きかったですね。例えるなら、美味しいものを一番近道で、より美味しくつくるためのプロセスを教えてくれました。基本的なことですが、まず着地点を決めておく。デッサンなどある程度カタチになったものから逆算して、どういうモデルさん、どういう技術が必要で、フォトグラファーはどんな人がいいのか考えて、世界観をつくるために組み立てる。経験を積んだ今でも、基本的には同じプロセスでクリエイションしています。現場によって多少のアレンジはしていますけれどね。

変化し続けるアーティストだけが活躍し続けられる

活躍し続けるヘアメイクアップアーティストに共通しているのは、「変化し続けていること」だと思います。言葉を選ばずに言うと、変化しない人は自分のスタイルを貫いているけれど、時代の変化とシンクロできていない。「自分もそう思われているかもしれない」という危機感もあります。ときには勇気を持ってキャリアを手離すことが大事です。過去のキャリアを捨てられないと、人は伸び悩んでしまうんですよ。

キャリアを捨てられる人や、そもそもキャリアがない人は、新しいものを吸収するしかない。だから伸びるんですよね。変化に順応できる人は、手離すことができる人なんだと思います。僕も変化し続けたいと思っていますが、積み重ねてきた「守りたいもの」もあるわけで、そのせめぎ合いをずっとしています。とはいえ何かを捨てたとしても、自分は自分。新しいワクワクドキドキする自分に出会いたいから、僕は変化を選んでいます。

日本人が忘れた「日本髪の文化」を新たな切り口で発信したい

僕はヘアメイクアップというカテゴリーに固執するつもりもありません。むしろ枠組みを飛び越えていろいろな人とクリエイティブなセッションをしていきたい。もちろん美容が好きだし、ヘアメイクアップも好きなんですが、表現としてはそこに限らなくてもいいと思っています。

ちなみに、新しい表現としてやりたいのは日本髪です。今勉強しているところなのですが、これがめちゃくちゃクリエイティブなんですよ。日本髪の世界を紐解くと面白いです。今のようなブラシやワックスがない時代ですから、工夫がいっぱい詰まっています。そんな魅力的なものを、日本人はどこかに置き忘れて来た感じがします。

ただ単に日本髪をつくるだけでは職人の技になってしまうので、自分なりのクリエイションに昇華していきたい。日本髪とパンクロックをテーマにつくるとか、アイディアを膨らませているところです。

これまでもアニメとビューティーなど遠いところにあるイメージを結びつけて、イノベーティブなものを生み出そうとしてきましたが、日本髪のような伝統文化でもできたら面白いですよね。

原田 忠の「座右の銘」

パラリンピック開会式でのパフォーマンスも記憶に新しい世界的ギタリスト布袋寅泰さんのヘアメイクでいつもご一緒させていただくのですが、「最新の自分が最高の自分」を掲げ、ライブのパフォーマンスに臨んでいる姿勢に、僕自身も感化されています。最新の自分が常に最高を更新し続けている状態でありたいと常に思っています。だから、何か作品をつくるときでも、必ず前の作品を超えたいですし更新したい。

人は過去に戻れないし、常に今が最新です。だから常に最高の状態でありたいと自分を鼓舞するワード、「最新の自分が、最高の自分」を掲げます。シンプルな言葉だからこそより奥深いと思います。


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